以前、このブログで「『ホワイトカラーエグゼンプション』(残業代ゼロ法案)はそれからどうなったのか 」というタイトルで、かつて話題になっていた「残業代ゼロ法案」とも言われたホワイトカラーエグゼンプションがどうなったかというのを書きました。

『ホワイトカラーエグゼンプション』(残業代ゼロ法案)はそれからどうなったのか : Timesteps

しかし、しばらくの間聞かれなかったこの「残業代ゼロ法案」というものが、2017年のニュースにおいて再び目にするようになってきました。ですのでそのあたりのことを書いてゆこうと思います(上記の記事からお読みいただけると理解が深まるかと思います)。
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残業代ゼロ法案と呼ばれる「高度プロフェッショナル制度」とは?


前回の記事では、2015年に再び「残業代ゼロ法案」が復活してきたというところまで書きましたが、その後厚生労働省の労働政策審議会の分科会報告書において「高度プロフェッショナル制度」という名称がつけられることとなります。
前回の記事と一部重なりますが、ここで「残業代ゼロ法案」と呼ばれる「高度プロフェッショナル制度」とは何なのかということを簡単に説明します。

これは現在の労働基準法を改正し、年収を条件として、現在労働基準法で定められている残業代の支払い義務をなくすというもの。導入の理由としては、現在の働き方の多様化で労働時間ではその報酬査定がしにくくなるが故、その成果で判断するために「時間ではなく、成果で評価する」とする制度の導入が主に経団連など雇用側から求められているというものがあります。
今回出て来ている改正案の内容としては、

・為替ディーラーなど年収が1075万円以上の専門職を対象に、年104日以上の休日取得
・労働時間の上限設定
・終業から始業まで一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」の導入
以上から何らかの対策を講じることを条件に、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が一切払われなくなる


というもの。(参考:「残業代ゼロ法案」連合容認へ 方針転換、組織に反発も:朝日新聞デジタル

しかしながら、これらの法律改正には以前よりいくつもの懸念が記されています。

第一に「範囲拡大の懸念」。
案では一定以上の年収(現在の案だと年収1075万円以上)で、金融コンサルタントなどの特定の高度専門業務を要件としております。さらに一般的な営業職は対象とならないことを明確化するとあります。しかし、その範囲が将来的な改正で拡大し、結果として対象年収の引き下げ、そして業務範囲の拡大がなされるという可能性について主に危惧を持たれております。
この懸念は労働者派遣法が範囲を拡大して今に至ることになったということも影響しているかもしれません。

さらに、「範囲を設定することで、そのギリギリまで労働を課される可能性」もあります。案では年104日以上の休日取得となっていますが、これを転じると「年104日未満までは合法」となり、ギリギリまで事実上の勤務で拘束される可能性もあるということ。ちなみに年104日というのは週休2日に52週(1年)をかけた数値で、ギリギリの場合祝祭日もないことになります。
また、現時点ではそれの強制力の担保が見えないというのもあります。すなわち残業代が出ないのに労働を事実上の強制で行わされ、サービス残業的なことになってしまう可能性もあり得ます。

そもそも、「時間ではなく、成果で評価する」という題目についても、成果で評価するという文面がないため、それ自体の妥当性を疑問視する声もあります。

■参考:「成果型労働」「成果で評価する」という誤報が止まらない(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース


反対の声と長期にわたる改正断念


これらの懸念の大筋は以前から指摘されていたものであり、故に反発の声も大きいものでした。「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法の改正案は、2015年4月に国会に提出されたものの、一度も審議入りしていないという状況でした。
今年3月にまとまった「働き方改革実行計画」は、改正案の早期成立を目指すと明記されていたものの、春の国会においても、成立は断念されたという経緯があります。

労基法改正案、今国会断念=残業規制と秋に一体審議-政府・与党:時事ドットコム


2017年7月、連合が容認との報道


しかし政府は今秋の臨時国会で審議する予定として連合及び経団連と水面下で話を進められており、2017年7月11日、連合(日本労働組合総連合会)は「高度プロフェッショナル制度」とする同趣旨のものについて、同制度の導入を容認する構えと報じられました。これは連合の見直し要請を受け、修正に踏み切るとありましたが、それは修正されればこの法案に合意されるという意味も含むとされます。連合はこれまで同法案に反対の立場を示してきましたので、容認を臭わせる修正を求めるということは方向転換ということになります。

しかしこれは連合の多くの組合員にとっても寝耳に水だったようで、報じられると一気に反響が起こります。今回の要請については、逢見事務局長や村上総合労働局長ら執行部の一部が主導し、3月末から水面下で政府と交渉を進めてきて、直前まで主要産別の幹部にも根回しをしていなかったと報じられています。
7月19日の夜には、連合本部前で異例とも言える連合に対してのデモが行われました。すなわち労働組合(の連合体)が労働者にデモをされたということになります。

「残業代ゼロ」連合容認に波紋 「次期会長候補が独走」:朝日新聞デジタル
連合へ働き手が異例のデモ 「残業代ゼロ、勝手に交渉」:朝日新聞デジタル
「残業代ゼロ法案」容認で大ブーイングの連合 空気を読めないワケ (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)


連合内部で大揺れ


7月21日、連合で中央執行委員会が開かれましたが、地方組織や傘下の産別などからこのことに反対意見が相次いだため組織内の了解を取り付けられなかったと報じられます。
予定としては、27日にも政府、経団連、そして連合で「政労使合意」を結ぶ予定だったとされていますが、連合内部での強烈な反発により事実上不可能に。中執委の次回の定例会合は8月25日、スケジュールを大きく変えないためには、臨時の中執委を開く必要があるとのことですが、先行きは不透明となっています。

「残業代ゼロ」連合執行部、了解得られず 産別など反対:朝日新聞デジタル
連合、混迷深まる 「残業代ゼロ」了解取り付け失敗:朝日新聞デジタル


今後に要注目


スケジュール通りであれば「政労使合意」が結ばれた上で秋の臨時国会で可決していた可能性が高かったものですが、その先行きは不透明となっています。
ただ、急に話が進展する可能性も十分あり得るので、今後のニュースは注目すべきものでしょう。(何かあったらこちらでも追記か新規エントリーで書くかもしれません)。


7/26追記・連合、撤回へ


7月26日、連合が「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案の修正を巡り、政労使での合意を見送る方針を固めたと報道されました。

連合「残業代ゼロ」容認撤回へ 労基法改正案、政労使合意見送り - 共同通信 47NEWS

これにより、27日の政労使合意は不可能となったわけですが、ただ今後この法案自体が流れるかというとそうとも言えず、連合の反対を押し切って秋の臨時国会やそれ以後に可決成立する可能性もないとは言えません。継続的注目が必要でしょう。


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その他参考

「残業代ゼロ」高プロ制度を連合が一転容認…「働き方改革」と矛盾しないのか? (弁護士ドットコム) - Yahoo!ニュース
残業代ゼロ法案を一転容認…「連合」は誰の味方なのか?|政治|ニュース|日刊ゲンダイDIGITAL
連合、労基法改正で大揺れ=神津会長、一転続投へ:時事ドットコム
連合が容認する「残業代ゼロ法案」は、日本的残業がある限り「一億総過労死社会」の入り口と化す(河合薫) - 個人 - Yahoo!ニュース