1990年代~2000年にかけてはIT技術が大きく進化、変動した年代であり、ユーザーが利用する端末も大きな変遷を遂げました。かつて多くのユーザーがIT端末といえばデスクトップパソコンが大多数であったにもかかわらず、ノートパソコンがそれらを追い越していったのもこの時代です。
その変化の過程において一時広まった製品には、今ではあまり見かけることのなくなったものも存在します。そのうちのひとつが『ネットブック』。
発売からもう10年近く経っているので、まずネットブックとは何かというところから。
ネットブックはすごく簡単に言ってしまうと、小型のノートパソコン。ノートパソコンの画面は現在では15インチ程度から小さいものでも10.1インチ程度あるのが普通ですが、ネットブックは小さいものでは5インチ程度で、全体のサイズもそれに合わせた小型。
さらに特徴的だったのは、その価格。当時のノートパソコンの価格帯が10万円台、スペックがある程度の上のものを除けば20万円を超えることもよくありましたが(参考)、ネットブックの代表的な価格帯は5万前後、普及してくると3万円台という、当時の端末の価格としてはかなりの低価格帯に属するものでした。
しかし、スペックとしては当時のノートパソコンと比べて抑えられていました。その理由としては低価格化をするためというのが第一要因ですが、性能を低くすることでバッテリーの消耗を抑えて駆動時間を長くするため、というのもあったでしょう。利用されているOSも当時最新だったWindows Vistaではなく既に前時代のOSとなっていたされていたWindws XPのHome Editionが使われるケースが多かったようです。
ネットブックの利用が想定されていたのは、メールやインターネット閲覧、あとせいぜいWordやExcelの使用が大半の層。つまり高価なパソコンを購入しなくても、大半それだけしかすることがない人に対して、高いノートパソコンよりも近い選択肢として提供することが目的とされていました。また、すでにパソコンを持っているユーザーがモバイル用のサブ機用途として購入するケースもありました。
これは、当時はケータイの主流がまだガラケーであり、PCと同じような機能をモバイルで実現するにはまだ役不足な面が多かったこと、それにこの当時からWebサービスが充実してきて、PCローカルの処理に依存しなくとも、ネットで様々な処理が可能になってきたことも大きいでしょう。現在のクラウドコンピューティングが一般ユーザー感に広まる、黎明期から発展期に移る段階だったと思います。
『ネットブック』として最初に出てきたものは、ASUS社「Eee PC」。2007年10月に海外で発売され、2008年はじめ、日本でも発表されました。海外での評判で注目が集まっていましたが、国内でも5万円程度の価格で登場したため、更に盛り上がります。
以下、当時のレビュー。
■4Gamer.net ― Eee PC発売記念(?) この小さいマシンでゲームを動かしてみよう――その1:Windows XPを頑張って小さくしてみる
■低価格ミニノート「EeePC」の日本語版、速攻フォトレビュー - GIGAZINE
当時のノートパソコンと比較してもスペックの低さは目立ちます。特に容量が4GBしかないということ(実質はOSが占めるので自由になる容量はもっと低い)。当時からしても10年前クラスです。しかしそこではHDDではなく当時出始めであったSSDが使われているところ、またSDカードにより容量の拡張が出来ること(SDHC対応なので32GBまで)。また、有線LANのみならず無線LANもディフォルトでついてきています。
筆者的にはなんとなく、その後爆発的に普及するスマートフォン、とりわけAndroidスマホの発想にかなり近いものを感じます(3G、4Gがないからタブレットのほうかな)。
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Eee PCは成功を収め、ネットブックのような低スペック、低価格製品は続々と発売されてゆきます。先行したのはASUSやエイサーなどの台湾系のメーカー。さらにDELLやヒューレット・パッカードなどの欧米メーカーもそれに続きます。
日本でもやや遅れてBPOパソコンのメーカーなど中小規模のメーカーが発売。その中にはかつてこのブログでも書いたソーテック(当時はオンキヨー傘下)それにソーテック創業者であった工人舎からも出ていました。
■PCメーカーのソーテックはそれからどうなったのか : Timesteps
そして東芝など大手メーカーからも発売されるようになります。
しかし、2009年~2010年あたりになると、スマートフォンが急速に普及してゆきます。2007年に発売された初代iPhoneも2009年6月には大幅にスペックアップして、2009年には普及の起爆となるiPhone 3GSが発売されます。値段としてはそこまで違わないものの、スマートフォンのスペックはネットブックに匹敵もしくは勝るほどになっており、何よりも携帯性に関しては完全にその地位を奪われてしまいます。
さらにはこの頃になると、海外製のものをはじめとしてノートパソコンの値段もだいぶ下がってきて、安いものであればネットブックのスペック以上でも3万円程度で買えるというのは珍しくなくなっていました(まあこれはネットブックの発想をノートパソコンに生かしたためとも言えるかもしれませんが)。
このようにスマートフォンとノートパソコンの間で、ネットブックは急速にその存在意義を奪われてゆきます。
さらには2010年頃にはタブレット端末も発売され、その地位がなくなってゆきました。
そして各社ともネットブックからの撤退が相次ぎます。ただ印象的には明確な撤退というよりは、ノートパソコンとの合流という形でいつのまにか出なくなっていた、という印象ですが。
そして本家のASUSも2012年春にEee PCの最新モデルが発売されましたが、それが最終モデルとなりました。
その時にはiPhoneが4Sになっており、さらにAndroidケータイも爆発的普及を見せ、ガラケーも下降線となっていた時期でした。
ここで消滅してしまったように見えたネットブックですが、なんと2016年の現在、それみたいなものが発売されているという情報が入っています。それらはネットブックと名乗ってはおらず、だいたいは「モバイルノート」という位置づけですが、低スペック、低価格という構成はまさにネットブックを思い起こさせるもの。
まずひとつは、EeePCを生み出したASUSからのEeeBook X205TAシリーズ。
■ASUS EeeBook X205TA | ノートパソコン | ASUS 日本
ASUSTeK EeeBook X205TA X205TA-FD0061T
さらに他社からも似たものは出ています。株式会社サードウェーブデジノス(ドスパラを運営するサードウェーブの系列)から出ている「Altair VH-AD」や、iiyama PCから出ている「Stl-11HP010-C-CE」といったもの。
■現代版のネットブック?:3万円でお釣りが返ってくる14型モバイルノートPC「Altair VH-AD」の実力を検証 (1/4) - ITmedia PC USER
■iiyama PC、「STYLE∞(スタイル インフィニティ)」よりコストパフォーマンスに優れたインテル® Celeronプロセッサー搭載11型コンパクト・エントリーノートパソコンを発売 : iiyama PC
Diginnos ノートパソコン Altair VH-AD Windows 10 Home 64bit
現在のノートパソコンと比較してスペックは高くはないものの、3~4万円台という安価。しかも最新OSであるWindows10というところが注目です。
現在、スマートフォンの普及でノートパソコンの売れ行き自体が落ちていると言われます。しかし、そのスマートフォンも普及しきった現在、またその市場も飽和状態になり、本体と一体となった物理キーボードなどそこにはないものがまた求められているのかもしれません。
その変化の過程において一時広まった製品には、今ではあまり見かけることのなくなったものも存在します。そのうちのひとつが『ネットブック』。
ネットブックとは何か
発売からもう10年近く経っているので、まずネットブックとは何かというところから。
ネットブックはすごく簡単に言ってしまうと、小型のノートパソコン。ノートパソコンの画面は現在では15インチ程度から小さいものでも10.1インチ程度あるのが普通ですが、ネットブックは小さいものでは5インチ程度で、全体のサイズもそれに合わせた小型。
さらに特徴的だったのは、その価格。当時のノートパソコンの価格帯が10万円台、スペックがある程度の上のものを除けば20万円を超えることもよくありましたが(参考)、ネットブックの代表的な価格帯は5万前後、普及してくると3万円台という、当時の端末の価格としてはかなりの低価格帯に属するものでした。
しかし、スペックとしては当時のノートパソコンと比べて抑えられていました。その理由としては低価格化をするためというのが第一要因ですが、性能を低くすることでバッテリーの消耗を抑えて駆動時間を長くするため、というのもあったでしょう。利用されているOSも当時最新だったWindows Vistaではなく既に前時代のOSとなっていたされていたWindws XPのHome Editionが使われるケースが多かったようです。
ネットブックの利用が想定されていたのは、メールやインターネット閲覧、あとせいぜいWordやExcelの使用が大半の層。つまり高価なパソコンを購入しなくても、大半それだけしかすることがない人に対して、高いノートパソコンよりも近い選択肢として提供することが目的とされていました。また、すでにパソコンを持っているユーザーがモバイル用のサブ機用途として購入するケースもありました。
これは、当時はケータイの主流がまだガラケーであり、PCと同じような機能をモバイルで実現するにはまだ役不足な面が多かったこと、それにこの当時からWebサービスが充実してきて、PCローカルの処理に依存しなくとも、ネットで様々な処理が可能になってきたことも大きいでしょう。現在のクラウドコンピューティングが一般ユーザー感に広まる、黎明期から発展期に移る段階だったと思います。
ネットブックの登場
『ネットブック』として最初に出てきたものは、ASUS社「Eee PC」。2007年10月に海外で発売され、2008年はじめ、日本でも発表されました。海外での評判で注目が集まっていましたが、国内でも5万円程度の価格で登場したため、更に盛り上がります。
以下、当時のレビュー。
■4Gamer.net ― Eee PC発売記念(?) この小さいマシンでゲームを動かしてみよう――その1:Windows XPを頑張って小さくしてみる
■低価格ミニノート「EeePC」の日本語版、速攻フォトレビュー - GIGAZINE
当時のノートパソコンと比較してもスペックの低さは目立ちます。特に容量が4GBしかないということ(実質はOSが占めるので自由になる容量はもっと低い)。当時からしても10年前クラスです。しかしそこではHDDではなく当時出始めであったSSDが使われているところ、またSDカードにより容量の拡張が出来ること(SDHC対応なので32GBまで)。また、有線LANのみならず無線LANもディフォルトでついてきています。
筆者的にはなんとなく、その後爆発的に普及するスマートフォン、とりわけAndroidスマホの発想にかなり近いものを感じます(3G、4Gがないからタブレットのほうかな)。
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続々ネットブックが発売された2008~2009年
Eee PCは成功を収め、ネットブックのような低スペック、低価格製品は続々と発売されてゆきます。先行したのはASUSやエイサーなどの台湾系のメーカー。さらにDELLやヒューレット・パッカードなどの欧米メーカーもそれに続きます。
日本でもやや遅れてBPOパソコンのメーカーなど中小規模のメーカーが発売。その中にはかつてこのブログでも書いたソーテック(当時はオンキヨー傘下)それにソーテック創業者であった工人舎からも出ていました。
■PCメーカーのソーテックはそれからどうなったのか : Timesteps
そして東芝など大手メーカーからも発売されるようになります。
スマホの普及とネットブックの衰退
しかし、2009年~2010年あたりになると、スマートフォンが急速に普及してゆきます。2007年に発売された初代iPhoneも2009年6月には大幅にスペックアップして、2009年には普及の起爆となるiPhone 3GSが発売されます。値段としてはそこまで違わないものの、スマートフォンのスペックはネットブックに匹敵もしくは勝るほどになっており、何よりも携帯性に関しては完全にその地位を奪われてしまいます。
さらにはこの頃になると、海外製のものをはじめとしてノートパソコンの値段もだいぶ下がってきて、安いものであればネットブックのスペック以上でも3万円程度で買えるというのは珍しくなくなっていました(まあこれはネットブックの発想をノートパソコンに生かしたためとも言えるかもしれませんが)。
このようにスマートフォンとノートパソコンの間で、ネットブックは急速にその存在意義を奪われてゆきます。
さらには2010年頃にはタブレット端末も発売され、その地位がなくなってゆきました。
そして各社ともネットブックからの撤退が相次ぎます。ただ印象的には明確な撤退というよりは、ノートパソコンとの合流という形でいつのまにか出なくなっていた、という印象ですが。
そして本家のASUSも2012年春にEee PCの最新モデルが発売されましたが、それが最終モデルとなりました。
その時にはiPhoneが4Sになっており、さらにAndroidケータイも爆発的普及を見せ、ガラケーも下降線となっていた時期でした。
現在でも発売されているネットブックのようなもの
ここで消滅してしまったように見えたネットブックですが、なんと2016年の現在、それみたいなものが発売されているという情報が入っています。それらはネットブックと名乗ってはおらず、だいたいは「モバイルノート」という位置づけですが、低スペック、低価格という構成はまさにネットブックを思い起こさせるもの。
まずひとつは、EeePCを生み出したASUSからのEeeBook X205TAシリーズ。
■ASUS EeeBook X205TA | ノートパソコン | ASUS 日本
ASUSTeK EeeBook X205TA X205TA-FD0061T
さらに他社からも似たものは出ています。株式会社サードウェーブデジノス(ドスパラを運営するサードウェーブの系列)から出ている「Altair VH-AD」や、iiyama PCから出ている「Stl-11HP010-C-CE」といったもの。
■現代版のネットブック?:3万円でお釣りが返ってくる14型モバイルノートPC「Altair VH-AD」の実力を検証 (1/4) - ITmedia PC USER
■iiyama PC、「STYLE∞(スタイル インフィニティ)」よりコストパフォーマンスに優れたインテル® Celeronプロセッサー搭載11型コンパクト・エントリーノートパソコンを発売 : iiyama PC
Diginnos ノートパソコン Altair VH-AD Windows 10 Home 64bit
現在のノートパソコンと比較してスペックは高くはないものの、3~4万円台という安価。しかも最新OSであるWindows10というところが注目です。
現在、スマートフォンの普及でノートパソコンの売れ行き自体が落ちていると言われます。しかし、そのスマートフォンも普及しきった現在、またその市場も飽和状態になり、本体と一体となった物理キーボードなどそこにはないものがまた求められているのかもしれません。