前回から間が開いてしましましたが、新語・流行語大賞から戦後現代史を見る企画で、今度は1985年になります。前回1984年については以下に。

流行語大賞からの現代史回想~1984年・ロス疑惑、グリコ・森永事件 : Timesteps

この年はバブルの入り口で景気は戦後日本史史上でも最上のあたりでしたが、その裏で近年まれに見るほどの出来事が多数起こっています。それは流行語大賞のものでも、それ以外においても。
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豊田商事詐欺と日航機墜落という大事件


この1985年には、後から見ると昭和戦後史上有数の事件が立て続けに起こります。

まずは豊田商事の一連の悪徳商法が明るみに出たことと、その結果訪れた豊田商事会長刺殺事件。
豊田商事は現物まがい商法(金など価値のある現物を購入したように見せかけて、価値のない同社が発行するペーパーを渡していた)による悪徳商法によって、高齢者を中心に資金集めを行っていましたが、この年に明るみに出て報道されるようになります。

そして6月18日、逮捕直前という報道が流れ、豊田商事会長の永野一男(当時32歳)の自宅マンション前に報道陣が詰めかけていましたが、それを掻き分けるようにして窓を割り、男が部屋に侵入。そして永野会長を刺殺するという事件が起こりました。その後永野会長は出血多量で死亡。
これについて、日中テレビカメラの前でその人物が刺され、大量に血を流している姿が報道されたこと、そして大量の報道陣がいたのに男に侵入を許し、殺害を止めることがなかったことも論議を呼びました。

ちなみに豊田商事の一連の悪徳商法においての被害者数は数万人、被害総額は2000億円と言われており、詐欺事件の中でも戦後最大級となりました。この後もその救済などのために問題が続くことになります。

■参考:豊田商事永野会長刺殺事件


その豊田商事事件の衝撃も覚めぬ1985年8月12日、日本航空123便墜落事故が発生。
東京発大阪行123便が、御巣鷹の尾根(群馬県多野郡上野村高天原山)に墜落した航空事故で、全乗員&乗客524名中520名が死亡するという、戦後最大クラス、且つ世界の航空機事故でも類を見ないほどの大規模事故となります。
その犠牲者の数、坂本九など有名人も含まれていたこと、事故現場の凄惨さ、そもそも事故が起きた原因など、この年は前述の豊田商事詐欺に関する一連の事件と共に、この話題が連日報道されることになりました。
毎年の8月12日の慰霊登山は今でも行われています。

■参考:御巣鷹の真実~日航ジャンボ機墜落事故~:時事ドットコム

これを舞台にした作品も数多く存在し、代表的なものとしては山崎豊子の『沈まぬ太陽』があります。また、こちらでも報道の在り方についても後々一石を投じられることとなり、それを舞台にした小説として横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』があります。
 

しかしながら、流行語大賞では、事件、事故を扱ったものは除外されることが多いため、これらに係るものは流行語大賞とはなりませんでした。


「NTT」と電電公社、日本専売公社民営化


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この年に流行語大賞として選ばれたものとしては「NTT」があります。
この年まで電話通信事業は日本電信電話公社として官営として存在してきましたが、電電改革三法により民営化。日本電信電話株式会社となりました。そしてその略称としてのNTTが定着。言うまでもなく、この略称は今でも使われており、電話事業のみならずあちこちで見かけるようになっています。

さらに同時にそれまでは塩とたばこを専売としてきた専売公社が、日本たばこ産業となります。こちらも今もJTという略称のほうが今では有名かも。


「トラキチ」と阪神タイガース21年ぶりの優勝


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この年、プロ野球において代表的な球団とされながらも21年間優勝から遠ざかっていた阪神タイガースがリーグ優勝、そして日本一に輝きます。
「トラキチ」とは、その阪神の熱狂的応援団のこと。ただその後は使われなくなったので、どれくらい流行していたのかはわかりませんが。ただ当時の阪神ファンの熱狂については、道頓堀ダイブ(withカーネルおじさん)などと共によく語り継がれます。
ちなみに前述の日航機事故では、この阪神タイガース球団社長であった中埜肇も犠牲になられており、弔いの優勝とも言われました。


「私はコレで会社をやめました」と禁煙パイポ


禁煙「パイポ」のCMにおいて、「私はこれでタバコを止めました」のオチとして、小指を立てた男性が「私はこれで会社を辞めました」というもの。



ある意味一番流行語らしい流行語と思えます。ちなみにこのフレーズ、今でもたまに使う人がいるので、それだけインパクトのあるものだったのでしょう。
現在でも禁煙パイポは現役であり、且つ社会の禁煙の流れで存在感を増しています。さらに最近話題になっている電子たばことしても発売されています。




「角抜き」と田中角栄


ロッキード事件後も正解に大きな支配力を持っていた田中角栄元総理が脳梗塞で倒れたことにより影響力を失っていったことの言葉。
言葉としてはこの当時のみの流行語ですが、この一連の出来事は、戦後昭和政治史の激動の瞬間を示すもととなります。


その他の流行語


そのほかの流行語としては、「分衆」(日本人の価値観の多様化、分散化を示す言葉)、「パフォーマンス」(政治用語として使われたことによるもの)、「キャバクラ」(現在では一般化した言葉がこの頃生まれた。ちなみに「キャバレー」と「クラブ」の合成語)、「投げたらアカン」(鈴木啓示の非行防止CMでの言葉)、「言語戦略」、「ネバカ」、「イッキ!イッキ!」、「100ドルショッピング」、「愛しているからチラいのよ」など。
また、「『ひょうきん族』から発する各種流行語」が受賞するなど、この番組、そしてこの当時のテレビバラエティが流行語の発信源として大きな存在であったことを伺わせます。


ほか1986年の出来事


そのほか、流行語大賞や前述の重大事件以外でも、この年にはいろいろ注目すべき出来事がありました。
まず、ゲーム史上の大ベストセラーとなるファミリーコンピュータの『スーパーマリオブラザーズ』が発売されたこと。これによりファミコンは大ブームとなり、そしてゲーム市場も以降、その存在感を非常に大きくしてゆきます。
またこの年にはいじめによる自殺報道が複数行われ、その存在が明るみに出ていた年でもありました。そしてそれは現在でも尚度々起こり、問題となっています。
その他昭和シェル石油誕生、両国国技館完成、 国際科学技術博覧会(つくば85)開催など。

しかし今から見ると、この年はかなり大きな事件が集まっている年となっている。こういう年って数年ごとにあるのですよね。
さて次は1986年。バブル真っ最中の年になります。

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■写真sozai:shamosan | Pixabay