近年のネットではAmazonのKindleやらAppleのiPadといった、電子書籍端末が広まっています。それに加えてスマホにも電子書籍用アプリが実装されています。
これら電子端末は、日本の出版業界にとっては、「黒船」と言われることがあります。それはこれら端末の普及により、今までの紙媒体による出版が、データによる書籍配信、すなわち「電子出版」にとって代わられ、その売り上げを大きく落とすのではないか、という懸念があるからでしょう。これはiPod&iTunesにより、それまでのCD中心だった音楽市場を一変させたという前例があるのも大きいでしょう。
日本でもAmazonやAppleの電子書籍に対抗するために、2010年頃出版社が連合して電子書籍のための協会が発足しました。
■「日本電子書籍出版社協会」発足、出版31社が参加し規格など検討 -INTERNET Watch
■EBPAJ 日本電子書籍出版社協会
しかし「前から電子書籍については言われていたのに、何で上陸する直前になって……」と思われた方も多いでしょう。しかし、日本でも電子書籍についての取り組みは、以前から、それこそ10年以上前から行われていたのです。今日はそれについて語ってゆこうと思います。
※このエントリーは、2015/1/11に加筆修正しました。
Kindle 3 / kodomut
時は1998年、ネットがやや普及してきたかなという時代で、携帯電話の爆発的な普及の入り口だった時代です。ちなみにiモードの開始が1999年でしたから、それよりも前ということになります。この時代、将来の電子書籍の普及を出版社、それに端末を売るハードメーカーも予見しており、ひとつの団体が立ち上がります。その名前は「電子書籍コンソーシアム」というもの。これは出版社約150社&ハードメーカーが集まるという大規模なもので、そこから電子書籍の策定を測ろうというものでした。そう、すでにこの時代から電子書籍の検討はなされていたのです。 構想は、通信衛星を使い、配信センターから各家庭や書店、コンビニなどの端末に配信するという仕組みだったようです。このようなものにより、紙媒体におけるロス(返本ロス、印刷費、流通費、倉庫代、処理代など)をなくすという計画がなされていました。
そして、出版社だけではなく、ハードメーカーでもその書籍用の端末が開発され始めます。
私が最初にこれを知ったのは、当時『コミックビーム』に連載されていた鈴木みそ氏の『オールナイト・ライブ』の、「電子ブックのあけぼの」という回。ここではその立ち上がったばかりのこの計画を主導する人にインタビューした時の話が描いてあります。メディアにMDとか出てきてなかなか懐かしさを感じるところがあります。ちなみにここのインタビューはこのプロジェクトの仕掛け人で元週刊ポストの編集長鈴木雄介氏が受けていたのですが、データのコピーに関してかなりおおらかに考えられていて、客を泥棒扱いせず、コピーを見た人もヘビーユーザーに育ってくれるので、コピーの度に画質劣化などで対応という感じで考えられていたようです。
鈴木みそ『オールナイトライブ』3巻P148
あと、当時のとり・みき氏の週刊アスキーに載ってた4コマでは、週刊マンガ雑誌も電子配信になるけど、あとで配信ということができるようになるから、配信開始時にまだ間に合っていない作家が出てきて、作者の執筆スピードが読者に一目でわかるなんてギャグもありました(つか、これはなんだか現実に起こりそうな。あの人とかあの人とか)。
そんな理想に満ちあふれていた電子書籍コンソーシアムはどうしたのか、というと、なんと2000年に解消されてしまいました。立ち上げからわずか2年です。これはどうしてなのでしょうか。その理由について佐々木俊尚氏の著書『電子書籍の衝撃』には、以下のように書かれています。
日本の出版業界で、出版の度に契約するというのは、多くの場合今まで慣習として行われてこなかったところがあります(それで問題が生じることも多々あったのですが)。故に、電子書籍には新たに契約を取り直さなくてはいけないことになるのです。しかし、それは既存のコンテンツをそのまま使えるのではなく、一からやり直さないといけないということにもなります。
さらにほかにもこんな問題も。
当時はパソコンもそこまで普及しておらず、さらにまだADSLの普及も十分でなくISDNで速いと言われていた時で、書籍のような膨大なデータを家庭の回線で配信するというのはまだ現実的ではなかった面もありますから端末について全否定は出来ません(実際当時はキオスク端末というものによる音楽、画像など各種メディアの配信も検討されており、実際にコンビニに端末が置かれていました)。しかし「しがらみ」が電子書籍の発展を阻害する大きな一因であることは確かだと思われます。ちなみにこれは後にも影響してきます。
ちなみに跡地(http://www.ebj.gr.jp/)は『ブックオンデマンド総合実証実験は2000年1月末日をもって無事終了しました。ご協力ありがとうございました。』というトップの文字が2010年あたりまでは表示されていました(現在は消失)。
しかし、それから日本で電子書籍配信が全く行われなかったわけではありません。この解消後、出版社数社が集まって「電子文庫パブリ」というサイトを2000年に開設しました。ほか、Sharp Space Town(消滅)、デジブックジャパン(消滅)、前述のマンガでインタービューされていた元週刊ポスト編集長鈴木雄介氏の立ち上げたイーブック イニシアティブ ジャパン、パピレスなどがあります。あと『ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日』という本の筆者横山三四郎氏が立ち上げた電子書籍自費出版のeブックランドというのもあります。
それらがどうなったのかというのは、佐々木氏のエントリーにありました。
しかし携帯電話向けのコミック配信を行っていたイーブック・イニシアティブ・ジャパンやパピレスなどは一定の成功を収めているようです。イーブック・イニシアティブ・ジャパンは、2013年に東証一部上場。
電子書籍コンソーシアムでは、ハードメーカーも参入していましたが、こちらからも端末は発売されました。そのひとつがパナソニックが2003年に発売した『シグマブック』というもの。電源オフでも表示状態を保持できる「記憶型液晶」を国内で初めて採用。書籍を随時閲覧できるよう電源スイッチを省略しながら、単3形乾電池2本で 3~6カ月使用可能な超低消費電力を実現と、7年前にしてはかなりのものです。その後後継機種の「Words Gear」も発売されました。
■News:松下が電子書籍に参入、記憶型液晶を採用の端末を開発
さらに、ソニーは『リブリエ』という端末を発売しました。
■参考:LIBRIe - Wikipedia
あと、FLEPiaという富士通の製品もあったようです。 これら対応の電子書籍は、前述のサイトやメーカー独自のサイトでダウンロードをしたり出来たようです。
で、これらはどうなったかというと
配信サービス自体も、シグマブックは2008年、リブリエは2009年に相次いで停止しています。
■電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退 - ITmedia News
ユーザーとして見るとやはり60日で消える、というのは、購入しづらい点があります。しかしこの気分、音楽配信でiTunesにおいては購入した音楽が移動出来たり、5台までの端末で利用できるのに対して、他の配信サービスがCDへの移動も他の端末への移動も出来ず、且つDLも一定期間しかできなくかなりしらけた気持ちと似ているような。 ただ、端末自体はわりとよいものであったようで、かなりもったいない気がします。 しかしこれがしがらみによるものだったら、この時に大きなチャンスを逃してしまったのかもしれません。ただそれがわかるのは、今から数年後でしょうが。
■参考:電子書籍 - Wikipedia
こんなことがありつつ、iPad、Kindleは上陸、そして電子書籍市場を席巻しているわけです。これからどうなるか、このまま寡占状態になるのかはまだわかりません。時既に遅しとか、10年以上やっててまとまらなかったものが数ヶ月で出来るかと思いがちですが、意外な大逆転がないとは言い切れませんし……と前述の文章を書いたのが2010年。ただ、2015年の現在、その市場にアプリなどでのサービスはまだしも、日本製の端末が食い込んでいるかというと……。
上記で書いたもののほかにも、シャープが電子ブックリーダー「GALAPAGOS」を出したものの、事実上早々に撤退することになりましたし。
現在楽天がカナダの会社を買収して「Kobo」という端末を、ブックライブが「BookLive Lideo」を、ソニーが「ソニー・リーダー」といったものを展開していますが、Kindleなどと比べて市場に食い込んでいるとは言えない状況です(まあ電子書籍リーダーよりも、タブレットやスマホでの電子書籍購読アプリのほうが端末の普及の分、席巻している感じを受けますが)。
ただ個人的には、電子書籍は日本製のものも、上で書いて来たような制約ガチガチのものではなく、自由な形で普及してほしいと思います。前述のようなところを見るとどうも日本の出版業界の罪ばかりが語られますが、これまで日本の豊富な書籍の流通を支えてきたのは小規模な会社も含めてこういった出版社や書店なわけですし。あと、度々起こる公的な表現規制の動きに反対して動いてくれているというところも大きいです。たしかに電子書籍は普及して、ユーザーに利便性をもたらし、書き手の自由度も増えるほうがよいと思いますが、だからといって出版社がなくなってゆく、というのは困るところがあります(まあ既得権益を主張して、電子書籍の新しい動きを阻害するようなところは、さっさとなくなってかまいませんが)。
ちなみに、個人的には電子書籍が普及したからといって、紙媒体が全くなくなる、とまではいかずに、棲み分けがなされると思うのですよね(シェアはある程度減るかもしれませんが)。というのは、電子媒体には結局「バッテリー」という制約があるので。実際今でも私は持ち歩くスマホの他に、それが使えなくなった時のためにバッグに一冊、文庫本を入れています(まあ主には病院とかスマホが使えない所での利用が多いですが)。超がつくほど長くバッテリーが持つ端末もそのうちには出るかもしれませんが、まだまだ時間がかかるでしょう。 故に最終的に、ユーザーが十分納得でき、且つ出版社や書店も落としどころを見つけられるようなWIN-WINの形で電子書籍が普及すればよいなと感じます。
ちなみにこのネタはだいぶ前から思いついてはいたのですが、丁度調べ始めたところで、先に引用させてもらった『電子書籍の衝撃』が発売されました。予想していた通り、上記電子書籍コンソーシアムについても書かれており、参考になりました。電子書籍についてとても興味深いことが書かれている本ですので、興味ある方は読んでみてください。
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)
これら電子端末は、日本の出版業界にとっては、「黒船」と言われることがあります。それはこれら端末の普及により、今までの紙媒体による出版が、データによる書籍配信、すなわち「電子出版」にとって代わられ、その売り上げを大きく落とすのではないか、という懸念があるからでしょう。これはiPod&iTunesにより、それまでのCD中心だった音楽市場を一変させたという前例があるのも大きいでしょう。
日本でもAmazonやAppleの電子書籍に対抗するために、2010年頃出版社が連合して電子書籍のための協会が発足しました。
■「日本電子書籍出版社協会」発足、出版31社が参加し規格など検討 -INTERNET Watch
■EBPAJ 日本電子書籍出版社協会
しかし「前から電子書籍については言われていたのに、何で上陸する直前になって……」と思われた方も多いでしょう。しかし、日本でも電子書籍についての取り組みは、以前から、それこそ10年以上前から行われていたのです。今日はそれについて語ってゆこうと思います。
※このエントリーは、2015/1/11に加筆修正しました。
Kindle 3 / kodomut
1998年設立の電子書籍コンソーシアム
時は1998年、ネットがやや普及してきたかなという時代で、携帯電話の爆発的な普及の入り口だった時代です。ちなみにiモードの開始が1999年でしたから、それよりも前ということになります。この時代、将来の電子書籍の普及を出版社、それに端末を売るハードメーカーも予見しており、ひとつの団体が立ち上がります。その名前は「電子書籍コンソーシアム」というもの。これは出版社約150社&ハードメーカーが集まるという大規模なもので、そこから電子書籍の策定を測ろうというものでした。そう、すでにこの時代から電子書籍の検討はなされていたのです。 構想は、通信衛星を使い、配信センターから各家庭や書店、コンビニなどの端末に配信するという仕組みだったようです。このようなものにより、紙媒体におけるロス(返本ロス、印刷費、流通費、倉庫代、処理代など)をなくすという計画がなされていました。
そして、出版社だけではなく、ハードメーカーでもその書籍用の端末が開発され始めます。
私が最初にこれを知ったのは、当時『コミックビーム』に連載されていた鈴木みそ氏の『オールナイト・ライブ』の、「電子ブックのあけぼの」という回。ここではその立ち上がったばかりのこの計画を主導する人にインタビューした時の話が描いてあります。メディアにMDとか出てきてなかなか懐かしさを感じるところがあります。ちなみにここのインタビューはこのプロジェクトの仕掛け人で元週刊ポストの編集長鈴木雄介氏が受けていたのですが、データのコピーに関してかなりおおらかに考えられていて、客を泥棒扱いせず、コピーを見た人もヘビーユーザーに育ってくれるので、コピーの度に画質劣化などで対応という感じで考えられていたようです。
鈴木みそ『オールナイトライブ』3巻P148
あと、当時のとり・みき氏の週刊アスキーに載ってた4コマでは、週刊マンガ雑誌も電子配信になるけど、あとで配信ということができるようになるから、配信開始時にまだ間に合っていない作家が出てきて、作者の執筆スピードが読者に一目でわかるなんてギャグもありました(つか、これはなんだか現実に起こりそうな。あの人とかあの人とか)。
2年経たずに解消された電子書籍コンソーシアム
そんな理想に満ちあふれていた電子書籍コンソーシアムはどうしたのか、というと、なんと2000年に解消されてしまいました。立ち上げからわずか2年です。これはどうしてなのでしょうか。その理由について佐々木俊尚氏の著書『電子書籍の衝撃』には、以下のように書かれています。
「結局、参加した出版社、企業それぞれの求めているものが違いすぎた。壮大な思い違いだった」
思い違いとは何だったのかというと、たとえばそのひとつに「出版社の持つ膨大なコンテンツ使用権」という幻想がありました。 コンソーシアムには、日本を代表する大手出版社の大半が参加していました。文芸系、ノンフィクション系、エンターテインメント系など各社が持っている膨大な数の書籍コンテンツをデジタル配信できれば、電子書籍はすぐにビジネスとして立ち上がるのではないかと、参加したメンバーは漠然とイメージしていたようです。 ところが実際に配信を始めようとしてみると、どの出版社も作家から電子ブックでの出版の許諾を得ていないことが発覚したのです。 (佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争)
日本の出版業界で、出版の度に契約するというのは、多くの場合今まで慣習として行われてこなかったところがあります(それで問題が生じることも多々あったのですが)。故に、電子書籍には新たに契約を取り直さなくてはいけないことになるのです。しかし、それは既存のコンテンツをそのまま使えるのではなく、一からやり直さないといけないということにもなります。
さらにほかにもこんな問題も。
本当はインターネットを経由して電子ブックをどう流通させるかという枠組みまで検討するはずだったのですが、本の卸売りを行っている取次が参加していたことから、「書店を中抜きしたら困る」という話になり、結果としてネット配信ではなく書店に端末を置くという変な仕組みになってしまいました。 いろんなしがらみが多すぎて、そこから脱却できなかったのが最大の失敗要因だったと思われます。 (佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争)
当時はパソコンもそこまで普及しておらず、さらにまだADSLの普及も十分でなくISDNで速いと言われていた時で、書籍のような膨大なデータを家庭の回線で配信するというのはまだ現実的ではなかった面もありますから端末について全否定は出来ません(実際当時はキオスク端末というものによる音楽、画像など各種メディアの配信も検討されており、実際にコンビニに端末が置かれていました)。しかし「しがらみ」が電子書籍の発展を阻害する大きな一因であることは確かだと思われます。ちなみにこれは後にも影響してきます。
ちなみに跡地(http://www.ebj.gr.jp/)は『ブックオンデマンド総合実証実験は2000年1月末日をもって無事終了しました。ご協力ありがとうございました。』というトップの文字が2010年あたりまでは表示されていました(現在は消失)。
2000年代の日本における電子書籍配信
しかし、それから日本で電子書籍配信が全く行われなかったわけではありません。この解消後、出版社数社が集まって「電子文庫パブリ」というサイトを2000年に開設しました。ほか、Sharp Space Town(消滅)、デジブックジャパン(消滅)、前述のマンガでインタービューされていた元週刊ポスト編集長鈴木雄介氏の立ち上げたイーブック イニシアティブ ジャパン、パピレスなどがあります。あと『ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日』という本の筆者横山三四郎氏が立ち上げた電子書籍自費出版のeブックランドというのもあります。
それらがどうなったのかというのは、佐々木氏のエントリーにありました。
(1)2000年に「電子文庫パブリ」という電子書籍の販売サイトを開設した。しかしこのサイトは何の進化もないまま10年間放置。タイトル数は今もってわずか1万3000点(Kindle Storeは2007年にスタートした際には9万点、現在は45万点がラインアップされている)。おまけにパブリの本の多くはシャープのXMDFという規格を採用していて、これは「ブンコビューア」というアプリケーションでしか読めない。シャープのサイトにあるブンコビューアの対応機種を見ると、なんだか化石を見ているような気分になる。いや、それを言うのならパブリのサイトの方がもっとうらぶれている。新刊書さえも日に焼けて埃をかぶり、営業努力も何もしないまま朽ち果てようとしている街外れの書店のようなたたずまい。
■電子書籍の開放を阻むべきではない:佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan
しかし携帯電話向けのコミック配信を行っていたイーブック・イニシアティブ・ジャパンやパピレスなどは一定の成功を収めているようです。イーブック・イニシアティブ・ジャパンは、2013年に東証一部上場。
誕生して、そして消えた電子書籍端末
電子書籍コンソーシアムでは、ハードメーカーも参入していましたが、こちらからも端末は発売されました。そのひとつがパナソニックが2003年に発売した『シグマブック』というもの。電源オフでも表示状態を保持できる「記憶型液晶」を国内で初めて採用。書籍を随時閲覧できるよう電源スイッチを省略しながら、単3形乾電池2本で 3~6カ月使用可能な超低消費電力を実現と、7年前にしてはかなりのものです。その後後継機種の「Words Gear」も発売されました。
■News:松下が電子書籍に参入、記憶型液晶を採用の端末を開発
さらに、ソニーは『リブリエ』という端末を発売しました。
■参考:LIBRIe - Wikipedia
あと、FLEPiaという富士通の製品もあったようです。 これら対応の電子書籍は、前述のサイトやメーカー独自のサイトでダウンロードをしたり出来たようです。
で、これらはどうなったかというと
(2)松下が2003年にシグマブック、ソニーが2004年にリブリエという電子書籍リーダーを発売したが、タイトル数がわずか数百点と悲惨なぐらいに少なかったうえ、出版社側の要請で「期限が切れたら読めなくなる」という貸本形式を採用したため、まったく売れなかった。シグマブックの販売台数はわずか 2000台ぐらいだったという話も聞いたことがある。結果、両社ともあえなく2007年に撤退。ちなみにリブリエもシグマブックも製品の出来は決して悪くなく、現在北米で発売されていて市場シェア2位のSony Readerはリブリエの後継機種だ。だから問題は製品単体ではなく、電子書籍の流通・購読システムにあったことは明らか。
■電子書籍の開放を阻むべきではない:佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan
配信サービス自体も、シグマブックは2008年、リブリエは2009年に相次いで停止しています。
■電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退 - ITmedia News
ユーザーとして見るとやはり60日で消える、というのは、購入しづらい点があります。しかしこの気分、音楽配信でiTunesにおいては購入した音楽が移動出来たり、5台までの端末で利用できるのに対して、他の配信サービスがCDへの移動も他の端末への移動も出来ず、且つDLも一定期間しかできなくかなりしらけた気持ちと似ているような。 ただ、端末自体はわりとよいものであったようで、かなりもったいない気がします。 しかしこれがしがらみによるものだったら、この時に大きなチャンスを逃してしまったのかもしれません。ただそれがわかるのは、今から数年後でしょうが。
■参考:電子書籍 - Wikipedia
失敗は繰り返されるのか
こんなことがありつつ、iPad、Kindleは上陸、そして電子書籍市場を席巻しているわけです。これからどうなるか、このまま寡占状態になるのかはまだわかりません。時既に遅しとか、10年以上やっててまとまらなかったものが数ヶ月で出来るかと思いがちですが、意外な大逆転がないとは言い切れませんし……と前述の文章を書いたのが2010年。ただ、2015年の現在、その市場にアプリなどでのサービスはまだしも、日本製の端末が食い込んでいるかというと……。
上記で書いたもののほかにも、シャープが電子ブックリーダー「GALAPAGOS」を出したものの、事実上早々に撤退することになりましたし。
現在楽天がカナダの会社を買収して「Kobo」という端末を、ブックライブが「BookLive Lideo」を、ソニーが「ソニー・リーダー」といったものを展開していますが、Kindleなどと比べて市場に食い込んでいるとは言えない状況です(まあ電子書籍リーダーよりも、タブレットやスマホでの電子書籍購読アプリのほうが端末の普及の分、席巻している感じを受けますが)。
ただ個人的には、電子書籍は日本製のものも、上で書いて来たような制約ガチガチのものではなく、自由な形で普及してほしいと思います。前述のようなところを見るとどうも日本の出版業界の罪ばかりが語られますが、これまで日本の豊富な書籍の流通を支えてきたのは小規模な会社も含めてこういった出版社や書店なわけですし。あと、度々起こる公的な表現規制の動きに反対して動いてくれているというところも大きいです。たしかに電子書籍は普及して、ユーザーに利便性をもたらし、書き手の自由度も増えるほうがよいと思いますが、だからといって出版社がなくなってゆく、というのは困るところがあります(まあ既得権益を主張して、電子書籍の新しい動きを阻害するようなところは、さっさとなくなってかまいませんが)。
ちなみに、個人的には電子書籍が普及したからといって、紙媒体が全くなくなる、とまではいかずに、棲み分けがなされると思うのですよね(シェアはある程度減るかもしれませんが)。というのは、電子媒体には結局「バッテリー」という制約があるので。実際今でも私は持ち歩くスマホの他に、それが使えなくなった時のためにバッグに一冊、文庫本を入れています(まあ主には病院とかスマホが使えない所での利用が多いですが)。超がつくほど長くバッテリーが持つ端末もそのうちには出るかもしれませんが、まだまだ時間がかかるでしょう。 故に最終的に、ユーザーが十分納得でき、且つ出版社や書店も落としどころを見つけられるようなWIN-WINの形で電子書籍が普及すればよいなと感じます。
参考文献:佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』
ちなみにこのネタはだいぶ前から思いついてはいたのですが、丁度調べ始めたところで、先に引用させてもらった『電子書籍の衝撃』が発売されました。予想していた通り、上記電子書籍コンソーシアムについても書かれており、参考になりました。電子書籍についてとても興味深いことが書かれている本ですので、興味ある方は読んでみてください。
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)