ネットが普及して良かったと思うことはいろいろありますが、そのうちのひとつに「詐欺の情報が周知できるようになった」というものがあります。たとえばネット普及期ならば、なんかよくわらかない勧誘が来て、それについて調べたら悪徳商法だったということもあるでしょう。

さて、今日は7年前くらいに起きたとある詐欺事件を扱うのですが、それもネットの普及に良い意味でも、そして悪い意味でも大きく関わる事件でした。その名は「JM-NET事件」。
Major quake hits Japan - The terrestrial digital broadcasting service for cellphone.
Major quake hits Japan - The terrestrial digital broadcasting service for cellphone. / MIKI Yoshihito (´・ω・)



携帯電話のIP網使用で定額化?


2002年11月、JM-NETという会社からとあるリリースが出されます。それは「モブデム」というものを使っての携帯電話の定額化サービス。モブデムとは、携帯電話のコネクタに差し込んで、音声を圧縮してIP化するという触れ込みの装置。その会社のリリースによると、これを使うことで定額(4500円)で携帯電話がかけ放題ということでした。

当時は携帯電話の普及期ですが、電話代というのは当時からかなりのネックになっていました。まだLINEもない時代でしたし、メールを送るにもパケット料金がかかってましたし。そこで定額になれば、たしかに魅力的なものです。本物ならば。

しかし、この発表がなされた途端、ネット上では賞賛よりも、いぶかしげな声が上がっていました。すなわち、これは技術的に可能なのかということ。特に2ちゃんねるの携帯電話系の板や技術系掲示板スラッシュドットジャパンにおいては、「これ、ありえないだろ」という書き込みがよく見られるようになります。

■参考:スラッシュドット・ジャパン | 固定料金のIP携帯電話


親会社の株価、大幅高騰


しかし、この発表と同時に株式市場で大きな変化が起こります。というのはこの会社が同月に、下水道工事を主に請け負う大盛工業が、JM-NETの株式を取得し親会社に なったため、この発表と同時に同社の株が急騰したのです。

実は先に書いてしまうと、これがこの一連の騒動を引き起こした金融ブローカーの目的だったのです。つまり、大盛工業の株を大量に買っておき、この発表で株価をつり上げる。そして売却という感じ。しかしこれは株価操作なので、当然違法です。後になってみれば、ここの利益が重要で、JM-NET自体はどうでもいいということだったのです。


疑惑報道と提訴、度重なる延期


そして前述の通りインターネットで話題になった後、テレビでこの会社がどうかという報道番組が組まれました(TBS「ニュースの森」「ニュース23」2003年3月17日)。そこでも嫌疑的な見解が出され、一度上がった株価は下がってゆきます(この当時に徐々に切り売りしていたのかもしれませんが)。

そして、最初のサービス開始予定日だった2003年4月1日の直前の3月24日、2003年8月25日に開始が延期される連絡がなされます。
そしてJM-NETはTBSに対して訴訟を申し立てたり堂々と展示会に出たりしつつ(おそらくは資金集めのためでしょうが)、8月25日になりますが、またサービス開始は延期。そして度々延期を繰り返し、2003年10月31日、とうとう大盛工業は、JM-NET株を手放します。

ちなみにこの時、一応サービスは始まっていました。しかしそれは最初に唱われていたようなものではなく、他社の海外コールバックアダプタでこれを偽装しようとしたもの。その時になるとJM-NETはコールバックであると開き直って新型モブデムを登場させていたようです。


本格的サービスが始まる前に破産


しかし、サービス開始予定日から一週間程度経った2004年1月19日、JM-NET新橋オフィスに朝から人影が消えます。
その翌日の2004年1月20日、会社は破産、(名目上の)社長となっていた人物はインタビューに対して、この一連の事件が詐欺であることを明言しました。

スラッシュドット・ジャパン | 「固定料金のIP携帯電話」JM-NETが破綻

ちなみに、この一連の騒動をモデルにしたものが、マンガ『クロサギ』でも「巨額投資詐欺」として描かれました(10巻)

クロサギ 10―戦慄の詐欺サスペンス (10) (ヤングサンデーコミックス)




逃亡した首謀者、2年後に逮捕


そしてブローカーは逃亡し、2年間行方知れずとなっていました(上記の『クロサギ』連載時点でも逮捕されていなかった)。しかし2007年10月11日、東京地検特捜部はそのブローカーを証券取引法違反(風説の流布)の疑いで逮捕しました。

その後同容疑で起訴、東京地裁において裁判が開始されます。被告は起訴事実を認め、2008年9月17日に懲役2年6月の実刑、追徴金15億円超の判決が下りました。


そして歴史は繰り返されている


しかしどうもこの手のIT系の怪しい話って、JM-NETのような騒ぎが落ち着いてから平成電電(ADSLモデム詐欺)や近未來通信(固定IP電話詐欺)の事件が起こったりと、一定期間ごとに起こりますよね。そんな引っかかる人が多いのでしょうか?

■参考:平成電電 - Wikipedia
■参考:近未來通信 - Wikipedia

ちょっと考えればこのような携帯電話なりが無料になる仕組みが本当だったとして、今まで多額の投資をしてインフラを整備していた各キャリアがどう思うのか、そして自社のインフラや携帯電話機をそのまま黙って使わせ、その企業にそのまま莫大な利益を与えるのがどんなにあり得ないか。そう考えればたとえ通信技術に詳しくなくても長期的に成立するかわかると思うのですが。

少なくともこのような事件が起こった以上、今後はこれらを情報として仕入れて怪しいと思わない人は、こういった事業に投資してはいけないような気がします。


※2014/12/23追記
今だと、LINEとかが普及した上格安SIMも出てきて、携帯キャリア自身が固定携帯電話通話サービスとか始めているので、もうこの手のIP定額携帯詐欺は出て来にくいでしょうね。
まあもちろんほかの角度で出てくる可能性は高いですけど。