現在音楽ファイルフォーマットとして今では当たり前のように使われているmp3(MPEG Layer-3)は、1990年代後半、ファイル容量の軽さや、その容量に比較しての音質の良さから、あっという間にパソコンでの音楽試聴のスタイルが広がってゆきました。
何よりも、CDをいちいちケースから取り出して、プレイヤーにかける手間がなくなったのが一番大きかったと思います。ですが、インターネット初期にはかなり権利者側から悪いイメージを持たれてしました。それは、MP3が事実上著作権保護機能を持たず、いくらでもコピーできることから。実際、アンダーグラウンドのサイトではCDからこれに変換された音楽ファイルが流通していました。
しかし本当に懸念されていたことは、借りたCDでもmp3として取り出して再生できる為、それまでのように一人一枚CDを買うのではなく、レンタルですませるという人が増えることだったという可能性も高いでしょう。
そういった中、mp3による流通をなんとか食い止めようと、いろいろな手法がとられました。特に悪い意味で有名なのは、コピーコントロールCD。
■CCCDはそれからどうなったのか : Timesteps
その時代の混迷も、後にiPod&iTunesの登場で一気にシェアを奪われるという結果になってしまうのですが。
ともあれmp3はその利便性により普及し、パソコンで手軽にCDからのエンコードが出来るソフトやプレイヤーも多数出てきました。有名なのは「午後のこ~だ」でしょう。昔からのパソコンユーザーでは、これを使って手持ちのCDをエンコードした人は多いのではないでしょうか。
しかし、このMP3に対して、1998年以降、ドイツのFraunhoferとフランスのThomsonがライセンスの保有を主張し始めました。
My Old MP3 Player / computerjoe
この出来事に、当時世界で、そしてまだ日本でも黎明期であったインターネット上でも話題となります。
特許はそれを主張しつつ、実際は何も行使しない場合も多々存在します。ただ、これらの会社はその後いくつかの会社に対して具体的に(訴訟などを介して)請求するようになったのです。これによりMP3を使っている人々の間にざわめきが起こります。というのは、ほかの特許同様、どこまでに起用されるのかがわからなかったからです。
■mp3licensing.com - Royalty Rates
上のは、その具体的なライセンスです。ここでは例えば5000本以上販売したゲームに使っているならば、US$2,500.00を支払うように記載されています。しかし、これがフリーソフトに及ぶかなどは依然不透明でした。故に、そこからいつ、自分のもとに請求が来るのではないかという恐れから、ソフト制作者はそれのバージョンアップや配布をやめてしまったケースもあります。前述の午後のこ~だも、一時期そのためか配布を中止してしまいました。
しかし、そんな状況を打開するために、いくつかの動きが起こります。それはLAMEの開発、もうひとつはOgg Vorbisの開発など。
LAMEとは正確に書くと説明が長くなるのですが、とりあえず上記の会社が持っている圧縮技術の特許を回避して、MP3エンコードを作成しようというシステム。
特許問題は若干残っているようですが、現在のところLAMEに対して訴訟が起こされたケースはありません。
しかし、仮にLAMEがつぶされていたら、oggなどほかのフォーマットが主流になっていた可能性はあります。実際、同じくライセンスのある、Thomson社などが発表した後発のmp3proはほとんど普及しませんでしたので。
そしてOgg Vorbisは、MP3と同じく音声ファイルフォーマットで、こちらはパテント(ライセンス料)フリーを目的としてオープンソースで作られました。
音楽フォーマットではMP3ほどの規模として変わることはありませんでしたが、ゲームなどで現在でも一定の用途があります。
■関連:ゲームの音声フォーマットとしてmp3があまり使われていない理由 | GMDISC.com~ゲームミュージックなブログ~
style="display:block; text-align:center;"
data-ad-layout="in-article"
data-ad-format="fluid"
data-ad-client="ca-pub-9564096827392522"
data-ad-slot="2529435977">
その後、少し別の角度からMP3でマイクロソフトが絡んだ裁判が起きます。マイクロソフトはMP3のライセンスを持つと主張するAlcatel-Lucent社から訴訟を起こされ、陪審員の評決で敗訴し、15億ドル(約1800億円)というとんでもない額の支払い命令を受けました。これは、MSが好きではないネットユーザーでも、次は同じことが自分たちの身近にも降りかかる可能性を予想して騒ぎになります。しかしその後、訴えられた2件のうち、特許1件について侵害はなく、もう1件についてはライセンスを持つ別の会社(最初に書いたFraunhofer)に支払われているとして逆転判決となりました。。Alcatel-Lucent社は控訴しましたが、米連邦控訴裁は、マイクロソフトに支払い責任がないとして訴えを却下しました。
■MSに15億ドル支払い命令--アルカテル・ルーセントとの特許裁判で
■MP3特許訴訟、マイクロソフトへの賠償評決覆す
■仏Alcatel-Lucent、MP3特許侵害でMicrosoftを再び提訴
■MSに賠償義務なし、アルカテルとのMP3特許侵害訴訟 2008/09/26(金) 17:25:44
現在ですが、特許に関して表だった動きはありませんが、大手ベンダーでMP3を利用しているところ、たとえはiTunesのAppleなどはライセンス料を支払っている可能性はあると思われます。
2000年以降はOGG同様、複数のフォーマットが音楽再生のために発展してきました。急速に広まっているのはAppleが採用し、iTunesやiPhoneの普及と共に利用の場を急速に広めている「AAC」。ほかマイクロソフト関連の音声再生でよく使われるフォーマット「WMA」、可逆圧縮フォーマット「FLAC」などもあります。ただ、いまだにMP3が音楽ファイルとしてはトップの座を守っています。
そして2000年代も後半になると、すでにこのMP3の普及は当然のものとなり、それを嫌っていて製品に対応させなかったメーカーも、対応をはじめるようになりました。ただ、かなり手遅れで、その隙にiPod等のシェアを奪われた面は否定出来ないでしょう。ある意味CCCDと同じような帰結。
その後はMP3においてそこまで大きな事件はありません。ただ、また同じような動きがあれば、騒ぎになると予想されます。実際2003年にもちょっとしたことでも警戒が強まった話題がありました。
■ 参考無料MP3デコーダのライセンス騒ぎ(スラッシュドット)
これに見られるように、ライセンス問題というのはメーカーのみならずユーザーも非常にピリピリさせるものなのでしょう。故に、こういった問題が持ち上がると、oggなりLAMEのように、それの代替ものがすぐ作られる動きにもなると思われます。
さて、MP3の特許ですが、日本における特許の状況は以下にあるものとなるようです。
■MP3とCDリッピングの昔話 - はにゃぶろぐ はじめました(2014年の記事)
このうち残存しているものとして「低サンプリング・レートでデジタル化されたオーディオ信号を符号化する方法」の特許は、権利満了予想日が2017年の2月19日と今年。
そして、来年からは上記で示されているものについては特許が切れることになると思われます。
■参考:本の虫: 日本国内におけるmp3の特許
ただ、それでフリーになるかどうかというのは、ほかにMP3にかかる権利関係がどうなっているのかの全貌が掴めていないので確たることは言えません。ただ、今年から来年にかけて、またこのあたり見直されることになるでしょうし、注目したいと思います。
何よりも、CDをいちいちケースから取り出して、プレイヤーにかける手間がなくなったのが一番大きかったと思います。ですが、インターネット初期にはかなり権利者側から悪いイメージを持たれてしました。それは、MP3が事実上著作権保護機能を持たず、いくらでもコピーできることから。実際、アンダーグラウンドのサイトではCDからこれに変換された音楽ファイルが流通していました。
しかし本当に懸念されていたことは、借りたCDでもmp3として取り出して再生できる為、それまでのように一人一枚CDを買うのではなく、レンタルですませるという人が増えることだったという可能性も高いでしょう。
そういった中、mp3による流通をなんとか食い止めようと、いろいろな手法がとられました。特に悪い意味で有名なのは、コピーコントロールCD。
■CCCDはそれからどうなったのか : Timesteps
その時代の混迷も、後にiPod&iTunesの登場で一気にシェアを奪われるという結果になってしまうのですが。
ともあれmp3はその利便性により普及し、パソコンで手軽にCDからのエンコードが出来るソフトやプレイヤーも多数出てきました。有名なのは「午後のこ~だ」でしょう。昔からのパソコンユーザーでは、これを使って手持ちのCDをエンコードした人は多いのではないでしょうか。
しかし、このMP3に対して、1998年以降、ドイツのFraunhoferとフランスのThomsonがライセンスの保有を主張し始めました。
My Old MP3 Player / computerjoe
MP3に対する特許主張
この出来事に、当時世界で、そしてまだ日本でも黎明期であったインターネット上でも話題となります。
特許はそれを主張しつつ、実際は何も行使しない場合も多々存在します。ただ、これらの会社はその後いくつかの会社に対して具体的に(訴訟などを介して)請求するようになったのです。これによりMP3を使っている人々の間にざわめきが起こります。というのは、ほかの特許同様、どこまでに起用されるのかがわからなかったからです。
■mp3licensing.com - Royalty Rates
上のは、その具体的なライセンスです。ここでは例えば5000本以上販売したゲームに使っているならば、US$2,500.00を支払うように記載されています。しかし、これがフリーソフトに及ぶかなどは依然不透明でした。故に、そこからいつ、自分のもとに請求が来るのではないかという恐れから、ソフト制作者はそれのバージョンアップや配布をやめてしまったケースもあります。前述の午後のこ~だも、一時期そのためか配布を中止してしまいました。
LAME・Ogg Vorbisの誕生
しかし、そんな状況を打開するために、いくつかの動きが起こります。それはLAMEの開発、もうひとつはOgg Vorbisの開発など。
LAMEとは正確に書くと説明が長くなるのですが、とりあえず上記の会社が持っている圧縮技術の特許を回避して、MP3エンコードを作成しようというシステム。
特許問題は若干残っているようですが、現在のところLAMEに対して訴訟が起こされたケースはありません。
しかし、仮にLAMEがつぶされていたら、oggなどほかのフォーマットが主流になっていた可能性はあります。実際、同じくライセンスのある、Thomson社などが発表した後発のmp3proはほとんど普及しませんでしたので。
そしてOgg Vorbisは、MP3と同じく音声ファイルフォーマットで、こちらはパテント(ライセンス料)フリーを目的としてオープンソースで作られました。
音楽フォーマットではMP3ほどの規模として変わることはありませんでしたが、ゲームなどで現在でも一定の用途があります。
■関連:ゲームの音声フォーマットとしてmp3があまり使われていない理由 | GMDISC.com~ゲームミュージックなブログ~
スポンサーリンク
style="display:block; text-align:center;"
data-ad-layout="in-article"
data-ad-format="fluid"
data-ad-client="ca-pub-9564096827392522"
data-ad-slot="2529435977">
マイクロソフトのMP3裁判
その後、少し別の角度からMP3でマイクロソフトが絡んだ裁判が起きます。マイクロソフトはMP3のライセンスを持つと主張するAlcatel-Lucent社から訴訟を起こされ、陪審員の評決で敗訴し、15億ドル(約1800億円)というとんでもない額の支払い命令を受けました。これは、MSが好きではないネットユーザーでも、次は同じことが自分たちの身近にも降りかかる可能性を予想して騒ぎになります。しかしその後、訴えられた2件のうち、特許1件について侵害はなく、もう1件についてはライセンスを持つ別の会社(最初に書いたFraunhofer)に支払われているとして逆転判決となりました。。Alcatel-Lucent社は控訴しましたが、米連邦控訴裁は、マイクロソフトに支払い責任がないとして訴えを却下しました。
■MSに15億ドル支払い命令--アルカテル・ルーセントとの特許裁判で
■MP3特許訴訟、マイクロソフトへの賠償評決覆す
■仏Alcatel-Lucent、MP3特許侵害でMicrosoftを再び提訴
■MSに賠償義務なし、アルカテルとのMP3特許侵害訴訟 2008/09/26(金) 17:25:44
現在も主流のMP3
現在ですが、特許に関して表だった動きはありませんが、大手ベンダーでMP3を利用しているところ、たとえはiTunesのAppleなどはライセンス料を支払っている可能性はあると思われます。
2000年以降はOGG同様、複数のフォーマットが音楽再生のために発展してきました。急速に広まっているのはAppleが採用し、iTunesやiPhoneの普及と共に利用の場を急速に広めている「AAC」。ほかマイクロソフト関連の音声再生でよく使われるフォーマット「WMA」、可逆圧縮フォーマット「FLAC」などもあります。ただ、いまだにMP3が音楽ファイルとしてはトップの座を守っています。
そして2000年代も後半になると、すでにこのMP3の普及は当然のものとなり、それを嫌っていて製品に対応させなかったメーカーも、対応をはじめるようになりました。ただ、かなり手遅れで、その隙にiPod等のシェアを奪われた面は否定出来ないでしょう。ある意味CCCDと同じような帰結。
その後はMP3においてそこまで大きな事件はありません。ただ、また同じような動きがあれば、騒ぎになると予想されます。実際2003年にもちょっとしたことでも警戒が強まった話題がありました。
■ 参考無料MP3デコーダのライセンス騒ぎ(スラッシュドット)
これに見られるように、ライセンス問題というのはメーカーのみならずユーザーも非常にピリピリさせるものなのでしょう。故に、こういった問題が持ち上がると、oggなりLAMEのように、それの代替ものがすぐ作られる動きにもなると思われます。
追記(2017/1/30)
さて、MP3の特許ですが、日本における特許の状況は以下にあるものとなるようです。
■MP3とCDリッピングの昔話 - はにゃぶろぐ はじめました(2014年の記事)
このうち残存しているものとして「低サンプリング・レートでデジタル化されたオーディオ信号を符号化する方法」の特許は、権利満了予想日が2017年の2月19日と今年。
そして、来年からは上記で示されているものについては特許が切れることになると思われます。
■参考:本の虫: 日本国内におけるmp3の特許
ただ、それでフリーになるかどうかというのは、ほかにMP3にかかる権利関係がどうなっているのかの全貌が掴めていないので確たることは言えません。ただ、今年から来年にかけて、またこのあたり見直されることになるでしょうし、注目したいと思います。