2006年後半から、2007年にかけてでしょうか、都内のJRの駅ではある現象が起こり始めました。それは、駅構内にあり、新聞や雑誌、ドリンクやガムなどさまざまなものの購入に役立っていた売店、キオスクが相次いで閉店したこと。駅に複数あったキオスクも、多くの駅でそのシャッターが閉められたまま、という事態が発生しました。

首都圏のキオスク、3分の1休業――Suica導入の意外な影響
20080711kiosk



キオスクの人手不足閉店


上のソースによると、2007年4月の時点で、すべてのキオスクのなんと1/3が閉店しているという事態。 さて、何故こうなったのか、というと、それは上に書いてあるように「人手不足」にあります。

キオスクの販売員には年配の女性が多いが、実は彼女たちは、キオスクを運営する東日本キヨスク(7月1日より「JR東日本リテールネット」に社名変更予 定)の正社員である。東日本キヨスクでは2006年8月から、東京圏で早期退職制度を導入し、約400人の正社員が退職した。東日本キヨスクではこの穴を 埋める契約社員やアルバイトを募集しているが、予想より応募が集まらなかったという。


つまり、キオスクのおばちゃんをリストラ(人員整理)したけど、それを補うはずのバイト、契約社員が集まらなかったと。 さらに当時あった批判として、「レジがキオスクおばちゃんのスキルを殺した」ということが言われていたのですよね。

キオスクの魅力というのは、ホームにあるという立地条件の良さだけではなく、コインを出せば、商品の値段、場所などを全部把握しているというスキルを持つ人が、一瞬で会計してくれるというところにありました。故に、電車が来て乗る直前に新聞を買っても、一瞬でおつりが来て乗れるという感じ。故にキオスクは、そういったスキルを持つ人じゃないと、出来ない場所だったのですよね。しかし、そのスキルによる販売方法故、どの駅でも客との間に一種の信頼関係があったと思います。
それがバーコード読み取り付きのレジの導入により、たしかに商品の記憶力を持ったおばちゃんではなくても値段が把握でき、記憶力を持たない新人の店員、たとえば契約社員やアルバイトでも、そこに立てるようにはなりました。しかも会社にとっては、今まで現場だよりだった商品の管理をPOSにより出来るようになりました。

しかしながら、レジでバーコードを通す手間は、かつてのキオスクのおばちゃんによる手渡しのようにはいきません。故に、キオスクの大きな利点である「すぐ買える」というのがなくなってしまいました。まあ、JRとしても、Suicaの普及狙いの目的があったので、レジは必須だったのでしょうが、同時にこのようなデメリットも生み出してしまったのです。故に、仮に早期退職したおばちゃんに替わるアルバイトが集まっていたとしても、同じ問題はかかえていたように思えます。 そしてキオスクは、1年以上経った今でも、多くの駅でシャッターが閉まったままとなっています。


業績は下がってはいない


しかし、これでキオスクを担当するJRの子会社の収益が下がったかというと、意外や意外、実は下がっていないらしいのです。

NEWDAYS Suica利用率が約20%に、KIOSKの減少とは反対に伸び続ける販売力

上は、2007年9月のニュースですが、文面を見るところ横ばい、もしくは伸びているという感じで、大きく下がったようには見えません。そこから大きく動いたという話はありませんから、とりあえず安定しているのだと思います。 でもこれは、考えてみると不思議ではないのですよね。というのは、NEWDAYS設立によって、駅歩0分というとんでもなく好条件の立地にコンビニを構えたようなものですから。

そう考えると、売れている品物はコンビニの売れ線商品と同じであり、かつてのキオスクとは違うような気がします。つまり、キオスクと同じ物を引き継いでいるのではなく、キオスクで売っていなかった別の物の売り上げ増加によって、利益を得ているのではないかと。売れているものは、おそらく弁当などのデイリーでしょうね。特に会社に出勤する人は、降りた駅のNEWDAYSに寄るなんてのも不思議ではないでしょう。
では、逆に売れなくなったものは何か。これはおそらく、キオスクで売れ線だった軽い菓子(ガムなど)と、新聞、雑誌ではないかと思われます。後者は携帯の普及というダブルショックもあり、特に深刻ではないかと。以下は前に書いたものですが、関連するのでご参考に。

マンガ雑誌の売り上げ減少はコンビニに大きな影響を与えるか - 空気を読まない中杜カズサ


今後の展開は


でも、こう考えると、JRの戦略は、やがて来るキオスクおばちゃんの大量退職前に手を打った、そしてそれをよく利用する団塊世代の退職による売り上げ低下を見越していたとなると、現時点では成功だったと言えるのではないでしょうか。まあ、キオスクをうまく残しておけば。もっと利益が増えたのではないかとも思えますが、それを言ったらif未来の話になってしまいますし。

これからですが、コンビニが好調なこと、派遣、契約社員のが今までよりも(企業側にとって)規制がかかる風潮になっていてきていること、さらに人を確保できても、かつてのようなスキルを持つ店員ではないので、利点が大きく失われていることなどを考えて、キオスク再開への方向は、JRのキオスク運営が本腰に乗り出す気がなければ、あまり期待できないとも言えるのではないかと。極論、あのスペースが撤去されてしまう可能性もありますね。
ただ、キオスクは、それ自体で儲けを得るよりも、駅でのサービスの一環としてやってほしい気はするのですけどね。

それに、コンビニ業界もだんだん厳しくなる傾向があるというニュースも流れていますから、今のままの勢いが絶対に続くとも限らないでしょう。ですので、これからまた動きがある可能性も否定できません。

コンビニ弁当大苦戦中 この7年間で利用が約半分

ともあれ、あのシャッターが降りたままの、狭いながらも超一等地なスペース、再びシャッターが開いて、キオスクとしてか、もしくは別の何かとしてか、有効活用される日はまた来るのでしょうか。