佐賀県西部に位置する武雄市、ここは数年前から色々な取り組みでメディアで話題になることが多くありました。
そしてそのひとつが、インターネットを使った独自の政策。、武雄市内部に広報などを目的とした「フェイスブック課」を設立したり、そして地方の特産品を販売する通販サイトである、「F&B良品(後に「自治体特選ストア」に名前を変更)」を開設したりというもの。
これは武雄市の前市長である樋渡啓祐氏の政策によるものが大きかったわけですが、それは現在ではどうなっているのか、これらが辿ってきた歴史とともに書いてゆくことにします。
IMGP4144 / yuki5287
佐賀県にある武雄市の主産業は商業と観光業で、とりわけ武雄温泉が有名な地域です。
この市は2006年に周辺の北方町・山内町と合併して新設の武雄市となりますが、それと同時期の選挙において初当選したのが、樋渡啓祐氏でした。
樋渡市長は総務庁出身で、内閣官房主査などの経歴を経て市長に立候補し当選し、市政で改革派としてその行動を起こします。それが地方の一市長という立場を超えて、全国的に知名度が広がることになります。しかし様々な面で強行的なところがあり、2008年には自治体病院の経営形態を巡る対立から市民の間にリコール運動が起きたのを機に出直し選挙も行ったりといったこともありました。
その樋渡市長の改革の特徴としてインターネット、とりわけソーシャルネットワークサービス(以下SNS)を使った改革が多いのが特徴でした。とりわけFacebookにおける利用が多く、当時はメディアなどで「フェイスブック市長」的な扱われ方をしており、市長自身も「日本フェイスブック学会」を設立して(あくまで私的な団体であり、日本学術会議の認定しているものではない私団体として)、会長となりました。
また、2011年には同市の公式Facebookページを開設し、それを公式としました(ただし当初は市のホームページを閉鎖しそちらに完全移行する予定だったようですが、そのまま併設し、転送される方式に。
また、2012年4月には、武雄市の秘書広報課にあったフェイスブック係を昇格させる形で「フェイスブック課」が設立され、そこで広報業務などを請負うようになります。
■武雄市広報課Facebook係が“昇格” | web R25(2012年)
■SNSは自治を変えることができるのか 日本フェイスブック学会から - ちょっとだけ47行政ジャーナル - 47NEWS(よんななニュース)(2012年)
■武雄市 樋渡啓祐×東浩紀×松原聡 パネルディスカッションの反応 - Togetterまとめ(2012年)
ちなみにその時々の市長の対応において、ネットではいろいろなことがあり、そのたびに物議を醸し出しました。詳細は長くなるのと本論から外れるのでここでは省きますが、以下に。
■高木浩光@自宅の日記 - 日本フェイスブック学会総会1118聖誕祭
■輝ける高木浩光氏とスーパー武雄市長・樋渡啓祐氏の戦い: やまもといちろうBLOG(ブログ)
■武雄市の樋渡市長、ユーザーを「ひまじんうんこ」と侮辱。自ら市のガイドライン破る(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース
そして、これら一連の流れで特に全国的に注目されたのが、「F&B良品」というもの。
これは通信販売サービスで、特徴としては自治体などの参加団体と契約し、そこの名産品などを売るという仕組みで、樋渡市長の提唱により2011年11月に「F&B良品TAKEO」を開設。そして翌月には他の自治体への展開も発表され、武雄市以外にも参加を求めます。
翌2012年5月には鹿児島の薩摩川内市も参入します。
さて、「F&B良品」とあることから、フェイスブック課などもあり、Facebookとの関連を連想させますが、当初Facebookのページ内で展開され、商品購入にFacebookアカウントが必要だった以外に関係はありません。
また、2012年12月からは、GMO MakeShopというネットショップシステムに変更となり、Facebookアカウントも不要になります。
その後2013年9月にはF&B良品としてのサービスが終了し、JAPAN satisfaction guaranteedと改名。その名前で展開が開始されます。
2014年3月の時点では、武雄市や薩摩川内市のほか、陸前高田市、大刀洗町、燕三条、那須町、南砺市、多可町、石垣市、宇多津町、関市、坂戸市、上板町、三島市、吉野町、錦町、松坂市、鞍手町、宇陀市、郡山市、京丹後市といった自治体が参加をしていました。
鎌倉市章, 鎌倉, 日本, 鎌倉市, かまくら, Kamakura, Japan / bryan...
2013年には鎌倉市では、「重点分野雇用創出事業」での国の補助による約720万円でF&Bホールディングス連合と随意契約を行い、10月のサイト開設を予定していました。
しかし、2013年10月に、武雄市において、住民訴訟が起こります。
そこでは、樋渡市長が株式会社SIIIS及び株式会社アラタナとの間で結んだ「FaceBookページ及びF&B良品ページ構築に係る業務に関する包括的業務委託企業連合協定書」が違法であること、またF&Bホールディングス企業連合が全国自治体と結んだ契約が違法であるというのが請求の主旨。
ここにおいて、「F&B良品」及び「JAPAN satisfaction guaranteed」の運営主体である各種団体についての疑問がわき上がってきます。
まず、F&B良品には参加団体と契約している任意団体として「F&Bホールディングス企業連合」というものがありました。2012年3月の時点では、ここを構成する団体として、武雄市、株式会社SIIIS、そして宮崎県のECベンチャーである株式会社アラタナから構成されており、当初は株式会社アラタナのSocialGateWayを販売システムとして株式会社SIIISの用意していたFacebookページ内に表示していたとのこと。
その1年後には株式会社アラタナが脱退し、先に書いたJAPAN satisfaction guaranteedへの名称変更時には、株式会社SIIISを代表構成員、武雄市、そして「satisfaction guaranteed」の商標を持つ株式会社サティスファクションギャランティードジャパンから構成されていたとのこと。ただし鎌倉市議会総務常任委員会協議会ではそれ以前の団体とは別団体であると報告されていたようです。
しかし、あくまで民間企業で構成された任意団体であり、その運営実態が不透明なこと、そしてそこに武雄市が入り、そして他の自治体と契約を結ぶことで連帯責任を負っていることについて先の訴訟などの通り問題視する声がありました。
■(archive)提訴:ネット販売巡り武雄市を 市内の男性 /佐賀- 毎日jp(毎日新聞)
■#武雄市問題: 武雄市に対する住民訴訟を提起しました
■FB良品におけるSIIIS社の立場について - Togetterまとめ
■佐賀県武雄市発自治体通販サイト訴訟、判決へ - 高圧☆洗浄機
鎌倉市議会でも論議が起こります。ここでは、業務委託先のF&Bホールディングス企業連合は任意組合として消費税を支払っていないにもかかわらず、鎌倉市は消費税を含む委託費を支払う契約になっていること、そして事業が一般入札ではなく、はじめからF&Bホールディングスありきの随意契約であることが疑問視されました。
そして鎌倉市は2013年12月19日、サイト開設を断念することを決定。
■武雄市からの回答待ち―自治体運営型通販サイト事業( 続報) | 鎌倉市議 保坂れい子
■Do Not Track Me — FB良品ありきの随契理由書
■武雄市に対する住民訴訟が、鎌倉市に波及? - Togetterまとめ
■武雄市発自治体通販の実態が鎌倉市議会で解明されはじめる - 高圧☆洗浄機
■通販サイトの開設断念、市長「市政滞ると判断」/鎌倉|カナロコ|神奈川新聞ニュース
a souvenir shop at Mishima shrine / Tagosaku
その後2014年9月、三島市も自治体運営型ネット通販サービス「三島sg」を10月で閉鎖。理由は売り上げ低下によるもの。
報道では「昨年12月には売り上げが10万円を超えたが、その後は低迷し、1万円ほどの月もあった。同サイトの運営には三島sgへの委託費が月15万円、ホームページ運営会社への委託費が月7万5千円かかり、赤字が続いていた。」とあり、地方自治体としては費用がとうてい売り上げに見合わなかったということ。
市の議会答弁からは、樋渡市長の講演を聴いた経済界からの要望で始めたものの、月平均約4万5千円程度と費用を大きく下回っていたとのこと。また、アクセス数が月平均2800と、市のホームページの1/20とのことだったので、一日100にも満たず、ちょっとした個人サイトの一日平均以下ということになってしまいます。ショッピングサイトでこれは致命的でしょう。
答弁では「高い授業料を払うといったようなことになりました」と締めくくられています。
■ネット通販「三島sg」 売り上げ低迷、10月閉鎖 | 静岡新聞
■三島市議会 議会中継 キーワード検索 ※「三島sg」をキーワードに。
■参考:F&B良品から474万円の赤字で脱退した三島市が、ECの本質を市議会で述べていた | 編集長ブログ―安田英久 | Web担当者Forum
■参考:「高い授業料だった」武雄市発自治体通販脱退の三島市長 - 高圧☆洗浄機
■参考:自治体特選ストア - Wikipedia
その後2014年10月からは、GMO MakeShopで構築されていたサイトは閉鎖され、Yahoo!内のショッピングモールであるYahoo!ショッピング内に移転し、「自治体特選ストア」としてそこの1ストアとして展開されます。
■自治体特選ストア - 通販 - Yahoo!ショッピング
しかし関市が2015年1月に撤退。
そして、2015年3月末には、薩摩川内、陸前高田、那須、石垣、鞍手、京丹後の自治体が撤退。
さらに夏には大刀洗、東彼杵も撤退。
2015年8月24日現在で同サイトを確認したところ、郡山、坂戸、燕三条、南砺、松坂、宇陀、吉野、多可、上板、宇多津、日南、錦、そして武雄の13の自治体となっております。
先の住民訴訟の内容にもありましたが、仮に、このまま縮小を続けて閉鎖となった場合、その負担はどこが負うのか、注目するところはあります。
追記:ただ、F&Bホールディングスから武雄市は2014年に抜けている模様。
■三島、SGやめるってよ どころか、武雄市もかよっ! #自治体通販 #たけお問題 - Soukaku's HENA-CHOKO Blog
ちなみに武雄市では、2014年12月、樋渡市長が佐賀県知事選に出馬のため辞任、そして2015年の市長選で新しく小松政市長が就任しました(樋渡氏はその後の佐賀知事選で落選)。
■樋渡・武雄市長が知事選出馬意向 市長選同時実施も|佐賀新聞LiVE
■佐賀知事選で与党敗北 農協支援の山口氏が初当選 :日本経済新聞
その後武雄市政の見直しが行われ、武雄市のフェイスブック課も広報課と名前を変更し、事実上消滅しました。記事によると、名前でその業務内容がわかりにくいという指摘があったとのこと。
ちなみに日本Facebook学会のにおいても、Facebook内にあるページを見る限り2012年11月29日で止まっております。武雄市長が替わっているので、武雄市がらみとしての活動はしにくいでしょうが、それ単体の活動はしていないのでしょうか(あったら教えてくだされば)。
■武雄市の「フェイスブック課」「いのしし課」廃止に、市民の反応複雑 - ニュース - Jタウンネット 佐賀県
■日本フェイスブック学会
※2016/1/13追記:見られなくなっていました。
このような感じで、正直栄えているとはとても言えません。もっとも行政が主導であったから目立つのであって、こういうような出ては消えていったショッピングモールサイトはもう数え切れないほど存在します。楽天やYahoo!などが目立つのは、それがごくごく少数の成功例だからでしょう。
しかしそうなると、何故そのような厳しい市場に行政が乗り出したのか、という疑問が出てきます。
2000年頃のIT革命の時なら、まだこのようなサイトが珍しかった時代なら行政が主導でやっているということで注目を浴びていたでしょう。対立である楽天やYahoo!などもまだ出始めでしたし。歴史にIFはありませんが、その頃からやっていたら成功していた可能性もあるかもしれません。
しかし現在、このようなサイトはありふれています。自治体が自らやるというところには確かに話題性はあったかもしれませんが、地方の特産を手に入れることのできるようなサイト自体ありふれており、明らかに後発です。自分としてはそれに対抗する力もノウハウも、そして何より継続性もなかったのではないか、ことによると「武士の商法」になっていたのではないかと考えます。
あと、ついでなのでフェイスブック活用についても私見を。フェイスブックというのは確かに広く利用されていますが、公的なものではなく、あくまで一企業の、それも海外の企業のサービスです。ということは、何らかの事情で突然サービスが終了してしまうという可能性もゼロではありません。
それまであったWebサービスがいきなり終了、なんて事態は今までもう数え切れないほど見てきたので。
■参考:インフォシークはそれからどうなったか : Timesteps
それに、個人情報(Facebookは原則実名登録)などの問題で使用を嫌う人がいます。その嫌う人への利用を閉ざしてしまうことは、行政のサイトとしては問題が生じるのではないでしょうか。
市役所のページというものは、現代では市民への、そして全国への広報上大切なものです。それをたとえ有名であっても、海外の一企業に委ねてしまうということは、あまりにも危険性が大きいのではないかと思われます。
故に当初の予定通り市のサイトを廃止して完全移行しなかったことについては正解だったと思われます。併用しての活用自体は特に問題がないと思うので、現状の平行して使われているやり方が広報としては最適ではないでしょうか。
■たけおポータル | 武雄市役所がお届けするポータルサイト
■武雄市役所
そして注目したいのは、これらは立ち上げ当時、あらゆる方面から高く評価されていたということです。
人間、未来を予見することは不可能でありますし、当時絶賛評価したからといってそれをもって否定するということは必ずしも出来ません。実際、その道のりは難しいにしても、「新しい可能性」はあったとは思いますし。しかし、その運用はよほどうまくしないと、どのような場合も失敗に向かってしまうと思われます。もう作れば放置しておいても発展するなんていうITは、前世紀に終わってしまったと思うので。
自治体や行政に限らずすべてのものにおいて、「新しいもの」が総じてよい方向に向かう、というわけではなく、そこに夢想ではなくきちんとした物を組み立てていかないと成立しないというのは教訓としたほうがよいのではないでしょうか。同じような過ちを繰り返さないためにも。
■関連:日経コンピュータReport - まだ続く「Googleグループ」での情報漏洩:ITpro
ちなみに私は、かつて盛んに言われていた「Web2.0」って、理想や名目ではなく、実態はいったい何だったか、いまだによくわからないでいます。
そしてそのひとつが、インターネットを使った独自の政策。、武雄市内部に広報などを目的とした「フェイスブック課」を設立したり、そして地方の特産品を販売する通販サイトである、「F&B良品(後に「自治体特選ストア」に名前を変更)」を開設したりというもの。
これは武雄市の前市長である樋渡啓祐氏の政策によるものが大きかったわけですが、それは現在ではどうなっているのか、これらが辿ってきた歴史とともに書いてゆくことにします。
IMGP4144 / yuki5287
武雄市の急進的IT政策
佐賀県にある武雄市の主産業は商業と観光業で、とりわけ武雄温泉が有名な地域です。
この市は2006年に周辺の北方町・山内町と合併して新設の武雄市となりますが、それと同時期の選挙において初当選したのが、樋渡啓祐氏でした。
樋渡市長は総務庁出身で、内閣官房主査などの経歴を経て市長に立候補し当選し、市政で改革派としてその行動を起こします。それが地方の一市長という立場を超えて、全国的に知名度が広がることになります。しかし様々な面で強行的なところがあり、2008年には自治体病院の経営形態を巡る対立から市民の間にリコール運動が起きたのを機に出直し選挙も行ったりといったこともありました。
その樋渡市長の改革の特徴としてインターネット、とりわけソーシャルネットワークサービス(以下SNS)を使った改革が多いのが特徴でした。とりわけFacebookにおける利用が多く、当時はメディアなどで「フェイスブック市長」的な扱われ方をしており、市長自身も「日本フェイスブック学会」を設立して(あくまで私的な団体であり、日本学術会議の認定しているものではない私団体として)、会長となりました。
また、2011年には同市の公式Facebookページを開設し、それを公式としました(ただし当初は市のホームページを閉鎖しそちらに完全移行する予定だったようですが、そのまま併設し、転送される方式に。
また、2012年4月には、武雄市の秘書広報課にあったフェイスブック係を昇格させる形で「フェイスブック課」が設立され、そこで広報業務などを請負うようになります。
■武雄市広報課Facebook係が“昇格” | web R25(2012年)
■SNSは自治を変えることができるのか 日本フェイスブック学会から - ちょっとだけ47行政ジャーナル - 47NEWS(よんななニュース)(2012年)
■武雄市 樋渡啓祐×東浩紀×松原聡 パネルディスカッションの反応 - Togetterまとめ(2012年)
ちなみにその時々の市長の対応において、ネットではいろいろなことがあり、そのたびに物議を醸し出しました。詳細は長くなるのと本論から外れるのでここでは省きますが、以下に。
■高木浩光@自宅の日記 - 日本フェイスブック学会総会1118聖誕祭
■輝ける高木浩光氏とスーパー武雄市長・樋渡啓祐氏の戦い: やまもといちろうBLOG(ブログ)
■武雄市の樋渡市長、ユーザーを「ひまじんうんこ」と侮辱。自ら市のガイドライン破る(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース
F&B良品
そして、これら一連の流れで特に全国的に注目されたのが、「F&B良品」というもの。
これは通信販売サービスで、特徴としては自治体などの参加団体と契約し、そこの名産品などを売るという仕組みで、樋渡市長の提唱により2011年11月に「F&B良品TAKEO」を開設。そして翌月には他の自治体への展開も発表され、武雄市以外にも参加を求めます。
翌2012年5月には鹿児島の薩摩川内市も参入します。
さて、「F&B良品」とあることから、フェイスブック課などもあり、Facebookとの関連を連想させますが、当初Facebookのページ内で展開され、商品購入にFacebookアカウントが必要だった以外に関係はありません。
また、2012年12月からは、GMO MakeShopというネットショップシステムに変更となり、Facebookアカウントも不要になります。
その後2013年9月にはF&B良品としてのサービスが終了し、JAPAN satisfaction guaranteedと改名。その名前で展開が開始されます。
2014年3月の時点では、武雄市や薩摩川内市のほか、陸前高田市、大刀洗町、燕三条、那須町、南砺市、多可町、石垣市、宇多津町、関市、坂戸市、上板町、三島市、吉野町、錦町、松坂市、鞍手町、宇陀市、郡山市、京丹後市といった自治体が参加をしていました。
住民訴訟と鎌倉市の出店議論。そこで発覚した諸問題
鎌倉市章, 鎌倉, 日本, 鎌倉市, かまくら, Kamakura, Japan / bryan...
2013年には鎌倉市では、「重点分野雇用創出事業」での国の補助による約720万円でF&Bホールディングス連合と随意契約を行い、10月のサイト開設を予定していました。
しかし、2013年10月に、武雄市において、住民訴訟が起こります。
そこでは、樋渡市長が株式会社SIIIS及び株式会社アラタナとの間で結んだ「FaceBookページ及びF&B良品ページ構築に係る業務に関する包括的業務委託企業連合協定書」が違法であること、またF&Bホールディングス企業連合が全国自治体と結んだ契約が違法であるというのが請求の主旨。
ここにおいて、「F&B良品」及び「JAPAN satisfaction guaranteed」の運営主体である各種団体についての疑問がわき上がってきます。
まず、F&B良品には参加団体と契約している任意団体として「F&Bホールディングス企業連合」というものがありました。2012年3月の時点では、ここを構成する団体として、武雄市、株式会社SIIIS、そして宮崎県のECベンチャーである株式会社アラタナから構成されており、当初は株式会社アラタナのSocialGateWayを販売システムとして株式会社SIIISの用意していたFacebookページ内に表示していたとのこと。
その1年後には株式会社アラタナが脱退し、先に書いたJAPAN satisfaction guaranteedへの名称変更時には、株式会社SIIISを代表構成員、武雄市、そして「satisfaction guaranteed」の商標を持つ株式会社サティスファクションギャランティードジャパンから構成されていたとのこと。ただし鎌倉市議会総務常任委員会協議会ではそれ以前の団体とは別団体であると報告されていたようです。
しかし、あくまで民間企業で構成された任意団体であり、その運営実態が不透明なこと、そしてそこに武雄市が入り、そして他の自治体と契約を結ぶことで連帯責任を負っていることについて先の訴訟などの通り問題視する声がありました。
■(archive)提訴:ネット販売巡り武雄市を 市内の男性 /佐賀- 毎日jp(毎日新聞)
■#武雄市問題: 武雄市に対する住民訴訟を提起しました
■FB良品におけるSIIIS社の立場について - Togetterまとめ
■佐賀県武雄市発自治体通販サイト訴訟、判決へ - 高圧☆洗浄機
鎌倉市議会でも論議が起こります。ここでは、業務委託先のF&Bホールディングス企業連合は任意組合として消費税を支払っていないにもかかわらず、鎌倉市は消費税を含む委託費を支払う契約になっていること、そして事業が一般入札ではなく、はじめからF&Bホールディングスありきの随意契約であることが疑問視されました。
そして鎌倉市は2013年12月19日、サイト開設を断念することを決定。
■武雄市からの回答待ち―自治体運営型通販サイト事業( 続報) | 鎌倉市議 保坂れい子
■Do Not Track Me — FB良品ありきの随契理由書
■武雄市に対する住民訴訟が、鎌倉市に波及? - Togetterまとめ
■武雄市発自治体通販の実態が鎌倉市議会で解明されはじめる - 高圧☆洗浄機
■通販サイトの開設断念、市長「市政滞ると判断」/鎌倉|カナロコ|神奈川新聞ニュース
自治体苦戦の報告、そして三島市撤退
a souvenir shop at Mishima shrine / Tagosaku
その後2014年9月、三島市も自治体運営型ネット通販サービス「三島sg」を10月で閉鎖。理由は売り上げ低下によるもの。
報道では「昨年12月には売り上げが10万円を超えたが、その後は低迷し、1万円ほどの月もあった。同サイトの運営には三島sgへの委託費が月15万円、ホームページ運営会社への委託費が月7万5千円かかり、赤字が続いていた。」とあり、地方自治体としては費用がとうてい売り上げに見合わなかったということ。
市の議会答弁からは、樋渡市長の講演を聴いた経済界からの要望で始めたものの、月平均約4万5千円程度と費用を大きく下回っていたとのこと。また、アクセス数が月平均2800と、市のホームページの1/20とのことだったので、一日100にも満たず、ちょっとした個人サイトの一日平均以下ということになってしまいます。ショッピングサイトでこれは致命的でしょう。
答弁では「高い授業料を払うといったようなことになりました」と締めくくられています。
■ネット通販「三島sg」 売り上げ低迷、10月閉鎖 | 静岡新聞
■三島市議会 議会中継 キーワード検索 ※「三島sg」をキーワードに。
■参考:F&B良品から474万円の赤字で脱退した三島市が、ECの本質を市議会で述べていた | 編集長ブログ―安田英久 | Web担当者Forum
■参考:「高い授業料だった」武雄市発自治体通販脱退の三島市長 - 高圧☆洗浄機
■参考:自治体特選ストア - Wikipedia
Yahoo!ショッピング内に移転、そして現状
その後2014年10月からは、GMO MakeShopで構築されていたサイトは閉鎖され、Yahoo!内のショッピングモールであるYahoo!ショッピング内に移転し、「自治体特選ストア」としてそこの1ストアとして展開されます。
■自治体特選ストア - 通販 - Yahoo!ショッピング
しかし関市が2015年1月に撤退。
そして、2015年3月末には、薩摩川内、陸前高田、那須、石垣、鞍手、京丹後の自治体が撤退。
さらに夏には大刀洗、東彼杵も撤退。
2015年8月24日現在で同サイトを確認したところ、郡山、坂戸、燕三条、南砺、松坂、宇陀、吉野、多可、上板、宇多津、日南、錦、そして武雄の13の自治体となっております。
先の住民訴訟の内容にもありましたが、仮に、このまま縮小を続けて閉鎖となった場合、その負担はどこが負うのか、注目するところはあります。
追記:ただ、F&Bホールディングスから武雄市は2014年に抜けている模様。
■三島、SGやめるってよ どころか、武雄市もかよっ! #自治体通販 #たけお問題 - Soukaku's HENA-CHOKO Blog
フェイスブック課の閉鎖
ちなみに武雄市では、2014年12月、樋渡市長が佐賀県知事選に出馬のため辞任、そして2015年の市長選で新しく小松政市長が就任しました(樋渡氏はその後の佐賀知事選で落選)。
■樋渡・武雄市長が知事選出馬意向 市長選同時実施も|佐賀新聞LiVE
■佐賀知事選で与党敗北 農協支援の山口氏が初当選 :日本経済新聞
その後武雄市政の見直しが行われ、武雄市のフェイスブック課も広報課と名前を変更し、事実上消滅しました。記事によると、名前でその業務内容がわかりにくいという指摘があったとのこと。
ちなみに日本Facebook学会のにおいても、Facebook内にあるページを見る限り2012年11月29日で止まっております。武雄市長が替わっているので、武雄市がらみとしての活動はしにくいでしょうが、それ単体の活動はしていないのでしょうか(あったら教えてくだされば)。
■武雄市の「フェイスブック課」「いのしし課」廃止に、市民の反応複雑 - ニュース - Jタウンネット 佐賀県
■日本フェイスブック学会
※2016/1/13追記:見られなくなっていました。
何故こうなったか
このような感じで、正直栄えているとはとても言えません。もっとも行政が主導であったから目立つのであって、こういうような出ては消えていったショッピングモールサイトはもう数え切れないほど存在します。楽天やYahoo!などが目立つのは、それがごくごく少数の成功例だからでしょう。
しかしそうなると、何故そのような厳しい市場に行政が乗り出したのか、という疑問が出てきます。
2000年頃のIT革命の時なら、まだこのようなサイトが珍しかった時代なら行政が主導でやっているということで注目を浴びていたでしょう。対立である楽天やYahoo!などもまだ出始めでしたし。歴史にIFはありませんが、その頃からやっていたら成功していた可能性もあるかもしれません。
しかし現在、このようなサイトはありふれています。自治体が自らやるというところには確かに話題性はあったかもしれませんが、地方の特産を手に入れることのできるようなサイト自体ありふれており、明らかに後発です。自分としてはそれに対抗する力もノウハウも、そして何より継続性もなかったのではないか、ことによると「武士の商法」になっていたのではないかと考えます。
あと、ついでなのでフェイスブック活用についても私見を。フェイスブックというのは確かに広く利用されていますが、公的なものではなく、あくまで一企業の、それも海外の企業のサービスです。ということは、何らかの事情で突然サービスが終了してしまうという可能性もゼロではありません。
それまであったWebサービスがいきなり終了、なんて事態は今までもう数え切れないほど見てきたので。
■参考:インフォシークはそれからどうなったか : Timesteps
それに、個人情報(Facebookは原則実名登録)などの問題で使用を嫌う人がいます。その嫌う人への利用を閉ざしてしまうことは、行政のサイトとしては問題が生じるのではないでしょうか。
市役所のページというものは、現代では市民への、そして全国への広報上大切なものです。それをたとえ有名であっても、海外の一企業に委ねてしまうということは、あまりにも危険性が大きいのではないかと思われます。
故に当初の予定通り市のサイトを廃止して完全移行しなかったことについては正解だったと思われます。併用しての活用自体は特に問題がないと思うので、現状の平行して使われているやり方が広報としては最適ではないでしょうか。
■たけおポータル | 武雄市役所がお届けするポータルサイト
■武雄市役所
新しい技術が全ての場合にいいものとは限らない
そして注目したいのは、これらは立ち上げ当時、あらゆる方面から高く評価されていたということです。
人間、未来を予見することは不可能でありますし、当時絶賛評価したからといってそれをもって否定するということは必ずしも出来ません。実際、その道のりは難しいにしても、「新しい可能性」はあったとは思いますし。しかし、その運用はよほどうまくしないと、どのような場合も失敗に向かってしまうと思われます。もう作れば放置しておいても発展するなんていうITは、前世紀に終わってしまったと思うので。
自治体や行政に限らずすべてのものにおいて、「新しいもの」が総じてよい方向に向かう、というわけではなく、そこに夢想ではなくきちんとした物を組み立てていかないと成立しないというのは教訓としたほうがよいのではないでしょうか。同じような過ちを繰り返さないためにも。
■関連:日経コンピュータReport - まだ続く「Googleグループ」での情報漏洩:ITpro
ちなみに私は、かつて盛んに言われていた「Web2.0」って、理想や名目ではなく、実態はいったい何だったか、いまだによくわからないでいます。