近年「表現規制」が話題となることが多いです。そしてその標的となるのは、主にマンガやアニメ、ゲームといったもの、とりわけ性表現描写については激しいですね。

それらの規制運動は、ほとんどの場合「法規制」動きが付随してきます。前例を挙げれば限りがありませんが、一部は過去にも書きました。

1990年代の有害コミック運動はそれからどうなったのか : Timesteps
非実在条例(東京都青少年育成条例改正問題)はそれからどうなったのか【前編】 : Timesteps
非実在条例(東京都青少年育成条例改正問題)はそれからどうなったのか【後編】 : Timesteps

そして、時には政治家を通して、国会に「請願」されることもあります。

ゲーム・アニメ規制のものがなされた「請願」についてなるべくわかりやすく書いてみる - 空気を読まない中杜カズサ

だいぶ前にそのことについて書いたのですが、今日はほぼ全面的にリライトして、主に新興メディアであるアニメやゲームについてどのような規制請願がなされたのか書いてゆこうと思います。 
国会議事堂
国会議事堂 / Richard, enjoy my life!



2004~2005年の規制運動


これらの規制運動は昔からありましたが、多くはマンガなどが中心となった広い種類の文化を含んだものでした。しかし「アダルトアニメ」と「ゲーム」を指名して、政治の場に出てきて法制定の動きになったものがありました。それの出始めが2004年ごろ。

この時期、野田聖子議員を中心として、このようなアダルト製品の法制定の発言が出始めます。そして、それを後押ししていたと言われている団体が、カスパルという団体。

この団体はそれ以前に、ベクターの運営するGalge.comに対し、閉鎖要求をしていたことから、当時ネットで話題となっていました。それ以前にも静岡市立中央図書館に所蔵されていた『タイ買春読本』の廃棄を要求し、表現の自由・知る権利を擁護する観点からこれに反対した静岡市の図書館をよくする会と対立したとのこと。

静岡市の図書館をよくする会 『タイ買春読本』と「図書館の自由」に関する記録
■参考:カスパル - Wikipedia
■参考:「子供ポルノアニメの取り締りには新法を作るべき」野田聖子議員


エロゲー制作会社がエロゲー規制という矛盾


そしてこの団体ともうひとつ、ジュベネイル・ガイドという団体が存在しました。この団体も2004年12月にコンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)へ倫理審査基準に関する「質問状」を送付したことでネットで話題となっていました。

そしてこの二つの団体を中心として、「美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定請求」というものがなされます。

しかし、ジュベネイル・ガイドとについてはとあることがネットで話題となっていました。それはこのジュベネイル・ガイドという団体の運営母体が、実は以前エロゲーを制作していた会社ではないかということ。
そして上記運動の最中、『週刊新潮』がそれについての記事を掲載。そこで「ジュベネイル・ガイド理事長はエロゲーメーカーActiveの元社長で、ソフ倫2代目理事長と同一人物」であることや当時、ジュベネイル・ガイド本部事務局として届け出ていた東京都渋谷区のビル(ソシエッタ代官山がかつて入居していた)が廃墟同然の状態であることでした。

何故、エロゲー制作を行っている人間が、そのようなことを行っているのか、疑問と怒りが主にユーザーから噴出しました(一説では単なる権力争い的なものに、このような表現規制運動が使われたとも)。
ちなみに同記事によると「自分たちの作っていたアダルトゲーム(いわゆるエロゲ)は芸術作品だから問題無い」と主張していたとのこと。

このようなこともあったせいか、運動は下火になってゆき、話題もだんだん小さくなってゆきました。

ジュベネイル・ガイド - Wikipedia


アダルトアニメ・ゲーム規制の請願がなされる


しかし2008年5月、「美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定に関する請願」というものが参議院に提出されました。

民主党の参議院議員である円より子議員・下田敦子議員が紹介議員となり、参議院に提出されました。しかし、この文面、内容が2005年あたりで前述の団体によって集められていた署名のものとほとんど同じということが発覚。つまり、ほとぼりが冷めた頃にまた出てきたのかということで、ネット上でも批判が集まります。

しかしその後、この請願に関しては「審査未了」とされているので、事実上流れたことになるでしょう。ちなみにこの時紹介議員となった円より子議員・下田敦子議員はその後の参院選で落選。

■参考:名も無き市民の会 BLOG  とんでもない請願があらわれた!


そして再度の請願


しかしその後、また騒ぎになるのは2008年10月。それは「美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定に関する請願」(つまり前回と同じ名のもの)が、今度は衆議院法務委員会に提出されました。紹介議員は村井宗明議員(民主党。その後落選)。
こちらも第170回国会の資料を見ると、法案は「審査未了」となっているので、同じように流れたということでしょう。

ちなみに当時、児童ポルノ禁止法についての改正の動きに対し、慎重な議論を求める請願も、衆議院に提出されました。紹介議員は保坂展人議員(当時社民党。現世田谷区長)。

ねとらぼ:「エロゲーは危険な社会を作り出す凶器」――規制を求める請願、衆議院に - ITmedia News



そして現在



P.A.C. - Photographers Against Censorship / ozma


その後アダルトゲームやアニメに絞った直接的な(つまり具体的に指名しての)法規制は今のところないが、このあたりから表現規制の動きが激しくなります。そして、自治体(東京都の青少年条例など)での規制の動きや、国会で児童ポルノ法に便乗する形での表現規制の傾向がありました。

しかし2005年以来の、裏でどのような力関係が動いて、何が起きているかわけのわからない流れになっている点を明確にしなければ、どのような思想であっても動きに同調するのは警戒を要するものと思われます。

ともあれ今後もこのような請願やそれからの法規制の動きが出てこないとは限らないので、常に動向は注目すべきところでしょう。



2014/12/27追記・近年の請願


そんなことを書いた直後、以下のような情報が。

性的搾取を許さない、女性の人権確立を目指す法制定に関する請願:付託された同趣旨の請願一覧:参議院

これを見ると、「 性的搾取を許さない、女性の人権確立を目指す法制定に関する請願」という請願が今年の11月に出されていた模様。注目すべきなのはその項目の5番。

五、女性に対する強姦や性暴力を描くビデオゲームやマンガの販売を禁止すること。


DVや性暴力の防止など、人権侵害防止の項目に加え、それらを表現する「ビデオゲームやマンガの販売を禁止」という項目がありました。制限ではなく「禁止」という強い調子です。

しかし調べてみると、どうもこれは今年の第187回国会での初出ではなく、ほとんど同内容の請願が、2010年の第176回国会でも出ております。内容も同じく、『女性に対する強かんや性暴力を描くビデオゲームやマンガの販売を禁止すること。』という項目があります。紹介議員もだいたい同じ。

第176回国会 409 性的搾取を許さない女性の人権確立を目指す法制定を求めることに関する請願
性的搾取を許さない、女性の人権確立を目指す法制定に関する請願:請願の要旨:参議院
■参考:同人用語の基礎知識補足/ 性的搾取を許さない、女性の人権確立を目指す法制定に関する請願

そしてこの時は審議未了のまま流れていますが、それがまた今回出されていた、という形になります。

たしかに実際に暴力などの被害に遭われている女性の人権を守ることは大切です(ちなみに犯罪の防止も重要ですが、それと平行して、実際に被害に遭われた方に対しての補償制度や心理ケアも大切だと思います。まあこれは全ての犯罪被害に言えることですが)。しかしそれにまるで表現が直結しているように書かれ、それを「禁止」するとされているのはどうでしょうか。そしてここの請願内容だけ見れば非常に広い範囲の表現を「禁止」することにもつながり、さらには他の表現物への広い萎縮にもつながりかねません。極論性暴力を否定するための創作でさえ「禁止」されかねないわけで。

更に注目すべきは、この項目が民主党、そして今まで表現規制に対して反対の態度が強いとされていた共産党などの議員が含まれて請願されていることです。さらに上記禁止事項を含むもので2回目となるので、明確な意思があると推測されますが、前述のような表現についてどう考えられているのかもお聞きしたいところではあります。

そしてさらに怖いのは、この請願が今回ほとんど話題にならなかったこと。自分でさえ先日気づいたところなので。今回は審議未了となって終了しておりますが、仮にこのまま進んでいた場合、どうなっていたか、というところまで考えます。今後はこの分野に更に注目する必要がありそうです。


ともあれ、このあたりの表現規制問題については、政党などを問わず注目する必要がありますし、議論を深めるべきでしょう。