私が小学生時代の頃にはまだCDは普及しておらず、音楽を聴く方法といえばカセットテープかレコードでした。ちなみに初めて自分の小遣いで買ったレコードは、『ドラゴンクエストIII』のレコードでした。これが今の自分のゲーム音楽好きに繋がっているのかもなあ。
とはいえ、子供にとってレコードは高価なもので、おいそれと買えるものではなく、兄や姉の持っているレコードをうらやましく思っていましたね。でもそれ(洋楽とか)が聴きたいと思わないくらいの年齢ではありましたが。
しかし、そんな子供時代にも、たやすく手に入るレコードがありました。それが「ソノシート」というもの。
レコード自体は今でもそこそこ見ることがありますし、プレミアアイテム的な扱いでの限定販売もされることがあります。しかし「ソノシート」はどうなっているのでしょうか。それについて今日は書いてゆこうと思います。
まず、ソノシートと言ってもわからない人(特に若い人)がいると思うので、そこから説明しましょう。
ソノシートというのは、一言で言ってしまえばレコード盤の一種。しかし通常のLP、EPレコードのように硬質ではなく、フィルムのようなもので作られたペラペラのもの。
これは当時(1950~60年代あたり)、大卒の初任給が15,000円程度(ケタ間違いじゃなく、今の1/10)という時代、レコードの売値はLPなら2000円前後、EPでも300円くらいするという、非常に高価なものだったのですね。これはまだレコードの製造コストが高く、売値もそれに反映されていたためと思われますが、これでは音楽が好きでも、一般の人はなかなか手に入れることはできません。
■参考:大卒初任給の推移
そこで登場したのが「ソノシート」。大元は1958年にフランスのSAIPというメーカーで作られたとフォノシート(Phonosheet)というもの(「ソノシート」の名称については後述)。
これは塩化ビニールでできていますが、一般のレコードプレイヤーと同じように聴くことが出来ます。そして一番の特徴は製造コストも安く、数百円でLPレコードぐらい長時間収録できたということで、廉価で音楽を聴きたい人向けに作られたといいます。
ただ、当然安価な分だけ欠点はあります。材質がフィルムですからまず音が劣る。それにノイズもけっこう入ります。さらにはレコードはレコード針を溝に滑らせて、そこから音楽を読みとるという仕組みでしたが、ソノシートでは材質が弱いために聴く度に削れて劣化してしまうのですよね。ですから何度も聞くのには向きませんでした。
ちなみに私の家ではソノシートをレコードプレイヤーで多用するのは禁止となっていました。理由はレコードの針を早く劣化させてしまうから(と親は言ってましたが、本当にそうなっていたのかは不明ですが)。
ソノシートは最初からレコードと同様に販売されるよりは、雑誌の付録などとしてつけられることが多かったようです。
「ソノシート」という名前は今ではこの塩化ビニールレコードを指すものの一般的な呼び名となっていますが、これは商標で、先述の通り海外では「フォノシート」といい、国内の正式一般名称は「サウンドシート」らしいです。しかし、日本でそう呼ばれているのは、これを多く発行していたのが、出版社の朝日ソノラマ社だったから。そう、ソノシートノ「ソノ」は、朝日ソノラマの商標名であるそれから来ているのですね(故に朝日ソノラマ以外の会社から出ていたこれは、微妙に名称が違ったりします)。セロハンテープがニチバンの商標名であるセロテープで定着したようなものかと。
このソノシートの知名度を一気に高めたのが、子供向けの雑誌の付録として多く使われたこと。音質が多少悪くても安価で、音を再生出来るというソノシートの特性は、子供向けにちょうどよかったのですよね。特に、当時はテレビ番組が生活と一体となっていた時期でもあったので、子供向けの番組である特撮やアニメのコンテンツを収録したソノシートが多く誕生しました。
以前書いたように学研の科学と学習や、小学館の学習雑誌といった子供向け学習雑誌の付録としてついてくることもよくありました。そして付録の中には、プラスチックや紙製などの簡易レコードプレイヤー(手で回す)なんてのもありましたね。
■参考:App Town 教育:iPhoneアプリ「科学のふろく」第2弾、「実験レコードプレーヤー」 - ITmedia +D モバイル
■参考:小学館の学習雑誌はそれからどうなったのか : Timesteps
■参考:学研の学習雑誌「科学」と「学習」はそれからどうなったのか : Timesteps
さて、うちにもレコードプレイヤーがあり、レコードもまだ置いてあるのですが、その奥にソノシートを入れたものもあったので、久しぶりに取り出してきました。どんなソノシートがあったのか、ちょっと抜き出してみましょう。
当時の子供番組、ピンポンパンのソノシート。
当時、子供に人気だった仮面ライターのソノシート。上に「SONORAMA」の文字が。
これも人気だったウルトラマンシリーズからウルトラ大怪獣というソノシート。
ドリフターズのおもしろことばあそび、というもの。ちなみにドリフターズはマンガ化もされていて、独特の味があるのでB級のマンガファンには有名です。
ソノシートは多くが薄っぺらく赤か青でしたが、ちょっと厚めで黒っぽいものも存在しました。これは「サンダーエース」っていうもののらしいです。
もちろんテレビコンテンツ以外のものもあります。『小学二年生』についてきた、「九九あん記レコード」。
子供向けじゃないものとしては『ベビーブック』のしつけレコードなんてのもありますね(ま、小学館ですから)。
ちなみにうちのレコードは既に壊れているので再生はできませんが、ソノシートを再生した動画がYouTubeにあったので。
ソノシートが雑誌でよく使われたのは、1970年代から80年代中頃にかけて。この時代、音楽を再生する機器と言えばレコードとカセットテープレコーダーが一般的で、多くの家庭にあったからなのですね。
そして80年代半ばになってもソノシートは現役で、ゲームが誕生した後も雑誌の付録としてつけられました。かつて『Beep』というソフトバンクから出ていたゲーム雑誌があったのですが、そこに初期のゲーム音楽のソノシートがつけられていたのは、古いゲーマーの間では有名です。
■参考:Beepソノシート完全リスト
しかし、ソノシートのみならず、レコードにも大きな転機が訪れます。それは言わずもがな、CDの登場。スペースを取らず高音質というCDは1980年代後半からあっという間に広がってゆき、それまで主流であったレコードを駆逐してゆきます。家庭における音楽再生プレイヤーも、レコードプレイヤーからCDプレイヤーやラジカセにあっという間に変わってゆきました。そして再生機器の減少に伴い、レコードのリリースもしだいに減少してゆくことになります。
その勢いは今の新製品の比ではないくら急激だったように思えます。でもレコードショップの名前だけはそのまま残り続けていたので、レコードがほとんどないのにレコードショップと呼ぶ状態が続いていたように思えます。
そしてソノシートもレコード同様、CD普及の煽りを受けて需要が減少。雑誌からどんどん消えてゆき、音を収録した付録もCDにと変わってゆきます。残っていた学習雑誌の付録でさえも、90年代初頭には消えてしまったらしいです。
最後のソノシートは、市販のものとしては2005年に発売されたパンクバンドとして有名な遠藤ミチロウ率いるザ・スターリンの『電動こけし/肉』というシングル。200円で販売されたそうです。ここまである意味パンク。
最後の制作とされているのは、PlayStation2 で発売された『Dear My Friend』というゲームソフトの特典アイテム。
今はもう、ソノシートを作ることは出来ません。というのは唯一ソノシートを作っていた東洋化成が、先述の『Dear My Friend』ソノシートを生産後、工場移転の為に生産を打ち切ってしまったからです。というわけで、一時代を築いた媒体は、ひっそりと消えてゆきました。
そして音楽再生媒体としてレコードと共に一時代を支えたソノシートは消えてゆきました。ただ、そこで収録された資産は今でも一部引き継がれています。
永久保存盤 ソノシート誕生40周年記念 朝日ソノラマ大全集
製品規格は技術が進歩する以上、いつかは新しい技術に取って代われる運命です。ただ、レコード本体やVHS、カセットテープといったものはかつての規模の大きさ故、細々と生き残ってはいますが、このような主流ではない媒体は消えていってしまうのですね。メタルテープとかS-VHSとか。ただ、こういう支流でその時代を支えた媒体もあったということを覚えておきたいものです
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その他参考
■ソノシートとは? - CDJournal.com リサーチ
とはいえ、子供にとってレコードは高価なもので、おいそれと買えるものではなく、兄や姉の持っているレコードをうらやましく思っていましたね。でもそれ(洋楽とか)が聴きたいと思わないくらいの年齢ではありましたが。
しかし、そんな子供時代にも、たやすく手に入るレコードがありました。それが「ソノシート」というもの。
レコード自体は今でもそこそこ見ることがありますし、プレミアアイテム的な扱いでの限定販売もされることがあります。しかし「ソノシート」はどうなっているのでしょうか。それについて今日は書いてゆこうと思います。
ソノシートの誕生
まず、ソノシートと言ってもわからない人(特に若い人)がいると思うので、そこから説明しましょう。
ソノシートというのは、一言で言ってしまえばレコード盤の一種。しかし通常のLP、EPレコードのように硬質ではなく、フィルムのようなもので作られたペラペラのもの。
これは当時(1950~60年代あたり)、大卒の初任給が15,000円程度(ケタ間違いじゃなく、今の1/10)という時代、レコードの売値はLPなら2000円前後、EPでも300円くらいするという、非常に高価なものだったのですね。これはまだレコードの製造コストが高く、売値もそれに反映されていたためと思われますが、これでは音楽が好きでも、一般の人はなかなか手に入れることはできません。
■参考:大卒初任給の推移
そこで登場したのが「ソノシート」。大元は1958年にフランスのSAIPというメーカーで作られたとフォノシート(Phonosheet)というもの(「ソノシート」の名称については後述)。
これは塩化ビニールでできていますが、一般のレコードプレイヤーと同じように聴くことが出来ます。そして一番の特徴は製造コストも安く、数百円でLPレコードぐらい長時間収録できたということで、廉価で音楽を聴きたい人向けに作られたといいます。
ただ、当然安価な分だけ欠点はあります。材質がフィルムですからまず音が劣る。それにノイズもけっこう入ります。さらにはレコードはレコード針を溝に滑らせて、そこから音楽を読みとるという仕組みでしたが、ソノシートでは材質が弱いために聴く度に削れて劣化してしまうのですよね。ですから何度も聞くのには向きませんでした。
ちなみに私の家ではソノシートをレコードプレイヤーで多用するのは禁止となっていました。理由はレコードの針を早く劣化させてしまうから(と親は言ってましたが、本当にそうなっていたのかは不明ですが)。
子供向け雑誌の付録として有名に
ソノシートは最初からレコードと同様に販売されるよりは、雑誌の付録などとしてつけられることが多かったようです。
「ソノシート」という名前は今ではこの塩化ビニールレコードを指すものの一般的な呼び名となっていますが、これは商標で、先述の通り海外では「フォノシート」といい、国内の正式一般名称は「サウンドシート」らしいです。しかし、日本でそう呼ばれているのは、これを多く発行していたのが、出版社の朝日ソノラマ社だったから。そう、ソノシートノ「ソノ」は、朝日ソノラマの商標名であるそれから来ているのですね(故に朝日ソノラマ以外の会社から出ていたこれは、微妙に名称が違ったりします)。セロハンテープがニチバンの商標名であるセロテープで定着したようなものかと。
このソノシートの知名度を一気に高めたのが、子供向けの雑誌の付録として多く使われたこと。音質が多少悪くても安価で、音を再生出来るというソノシートの特性は、子供向けにちょうどよかったのですよね。特に、当時はテレビ番組が生活と一体となっていた時期でもあったので、子供向けの番組である特撮やアニメのコンテンツを収録したソノシートが多く誕生しました。
以前書いたように学研の科学と学習や、小学館の学習雑誌といった子供向け学習雑誌の付録としてついてくることもよくありました。そして付録の中には、プラスチックや紙製などの簡易レコードプレイヤー(手で回す)なんてのもありましたね。
■参考:App Town 教育:iPhoneアプリ「科学のふろく」第2弾、「実験レコードプレーヤー」 - ITmedia +D モバイル
■参考:小学館の学習雑誌はそれからどうなったのか : Timesteps
■参考:学研の学習雑誌「科学」と「学習」はそれからどうなったのか : Timesteps
いろいろなソノシート
さて、うちにもレコードプレイヤーがあり、レコードもまだ置いてあるのですが、その奥にソノシートを入れたものもあったので、久しぶりに取り出してきました。どんなソノシートがあったのか、ちょっと抜き出してみましょう。
当時の子供番組、ピンポンパンのソノシート。
当時、子供に人気だった仮面ライターのソノシート。上に「SONORAMA」の文字が。
これも人気だったウルトラマンシリーズからウルトラ大怪獣というソノシート。
ドリフターズのおもしろことばあそび、というもの。ちなみにドリフターズはマンガ化もされていて、独特の味があるのでB級のマンガファンには有名です。
ソノシートは多くが薄っぺらく赤か青でしたが、ちょっと厚めで黒っぽいものも存在しました。これは「サンダーエース」っていうもののらしいです。
もちろんテレビコンテンツ以外のものもあります。『小学二年生』についてきた、「九九あん記レコード」。
子供向けじゃないものとしては『ベビーブック』のしつけレコードなんてのもありますね(ま、小学館ですから)。
ちなみにうちのレコードは既に壊れているので再生はできませんが、ソノシートを再生した動画がYouTubeにあったので。
ゲーム音楽も収録されたソノシート
ソノシートが雑誌でよく使われたのは、1970年代から80年代中頃にかけて。この時代、音楽を再生する機器と言えばレコードとカセットテープレコーダーが一般的で、多くの家庭にあったからなのですね。
そして80年代半ばになってもソノシートは現役で、ゲームが誕生した後も雑誌の付録としてつけられました。かつて『Beep』というソフトバンクから出ていたゲーム雑誌があったのですが、そこに初期のゲーム音楽のソノシートがつけられていたのは、古いゲーマーの間では有名です。
■参考:Beepソノシート完全リスト
レコードと共にソノシートも衰退
しかし、ソノシートのみならず、レコードにも大きな転機が訪れます。それは言わずもがな、CDの登場。スペースを取らず高音質というCDは1980年代後半からあっという間に広がってゆき、それまで主流であったレコードを駆逐してゆきます。家庭における音楽再生プレイヤーも、レコードプレイヤーからCDプレイヤーやラジカセにあっという間に変わってゆきました。そして再生機器の減少に伴い、レコードのリリースもしだいに減少してゆくことになります。
その勢いは今の新製品の比ではないくら急激だったように思えます。でもレコードショップの名前だけはそのまま残り続けていたので、レコードがほとんどないのにレコードショップと呼ぶ状態が続いていたように思えます。
そしてソノシートもレコード同様、CD普及の煽りを受けて需要が減少。雑誌からどんどん消えてゆき、音を収録した付録もCDにと変わってゆきます。残っていた学習雑誌の付録でさえも、90年代初頭には消えてしまったらしいです。
ソノシートの消滅
最後のソノシートは、市販のものとしては2005年に発売されたパンクバンドとして有名な遠藤ミチロウ率いるザ・スターリンの『電動こけし/肉』というシングル。200円で販売されたそうです。ここまである意味パンク。
最後の制作とされているのは、PlayStation2 で発売された『Dear My Friend』というゲームソフトの特典アイテム。
今はもう、ソノシートを作ることは出来ません。というのは唯一ソノシートを作っていた東洋化成が、先述の『Dear My Friend』ソノシートを生産後、工場移転の為に生産を打ち切ってしまったからです。というわけで、一時代を築いた媒体は、ひっそりと消えてゆきました。
一時代を築いた音媒体として
そして音楽再生媒体としてレコードと共に一時代を支えたソノシートは消えてゆきました。ただ、そこで収録された資産は今でも一部引き継がれています。
永久保存盤 ソノシート誕生40周年記念 朝日ソノラマ大全集
製品規格は技術が進歩する以上、いつかは新しい技術に取って代われる運命です。ただ、レコード本体やVHS、カセットテープといったものはかつての規模の大きさ故、細々と生き残ってはいますが、このような主流ではない媒体は消えていってしまうのですね。メタルテープとかS-VHSとか。ただ、こういう支流でその時代を支えた媒体もあったということを覚えておきたいものです
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その他参考
■ソノシートとは? - CDJournal.com リサーチ