日本ではIT革命と呼ばれていた2000年代初め、IT系ニュースのみならず新聞でもかなり大きく話題になったビジネスニュースがありました。それが、アメリカの通信会社大手AOLと、映画会社、タイム・ワーナーの合併。
両者の合併によって株式総額は3500億ドル、売上高は合計300億ドルの巨大企業が誕生することになり、映像メディアのみならずビジネス全体においても「史上最大の合併」とまで言われました。

しかし、最近は各種ニュースでタイム・ワーナーの名前を耳にすることはあっても、AOLタイム・ワーナーと耳にすることはありません。そこで、このAOLタイム・ワーナーがどうなったか、今日はそれを書いてゆきましょう。

Demise of AOL
Demise of AOL / GDS Infographics



AOLとタイム・ワーナーの歴史


まず、AOLとタイム・ワーナーの歴史を簡単に。

AOLの前身はQuantum Computer Serviceという会社で、インターネットが普及する以前の1985年から、パソコン通信のサービスを展開していました。その後1989年に世界初のGUIベースソフトを利用したAmerica Onlineというマッキントッシュ用のパソコン通信サービスを開始し、利用者を増やします。
その後社名をAmerica Onlineに変更しますが、この頃からパソコンの普及により勢いをさらに増します。
1997年9月には、当時世界第2位のパソコン通信会社CompuServe社を買収します。

余談ですが、CompuServeは日本の大手パソコン通信ニフティサーブとも提携していたのでその名前を覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。ただ、その当時の仕組みであるCompuServeは2009年に運営を終了しているようです。

CompuServe Classicがサービス終了 - CNET Japan

 
話をAOLに戻します。AOLは1990年代中頃から普及し始めたインターネットの波にも乗り、プロバイダとしても勢いを伸ばします。ちなみに1990年代後半はプロバイダ獲得競争が激しく、新しく買ったパソコンにはあらかじめ各プロバイダへの(邪魔な)セットアップツールがインストールされていたり、PCショップに行くとセットアップCDを配っていたり、無理矢理送られてきたりしていました。アメリカではAOLがそれを激しく行っていたようで、セットアップCDを送り返す運動なんてのもあったようです。

AOL CDs to be Mailed
AOL CDs to be Mailed / compujeramey



Bird Scarer / Gilgongo


■参考:AOLに100万枚のCD-ROMを送り返す運動 - スラッシュドット・ジャパン

そして1998年11月にはNetscape Navigatorの開発元として知られるNetscape Communications社を買収するなど、ネット上の巨大な企業として成長してゆきました。

一方タイム・ワーナーは、1923年から存在した映画会社、ワーナー・ブラザーズと、有名雑誌『TIME』を出版するタイム社が1989年に合併して出来た会社。映画や雑誌のみならず、ニュース専門チャンネルCNNを傘下に持つ巨大な企業として存在していました。


世紀の合併



Time Warner Offices, Rochester Skyline / DragonFlyEye


2000年、まさにITバブルの波が世界中に押し寄せていた時、両社の合併発表がなされます。

ASCII.jp:米AOLと米タイム・ワーナーが合併、インターネット戦略を強化(2000年の記事)

この時の情報によると、
合併後の新会社名称は“AOLタイム・ワーナー”。両社の株式総額は3500億ドル(約36兆8725億円)、売上高は合計300億ドル(3兆1605億円)。現在のAOLの株主は、AOLタイムワーナー株の約55パーセントを、タイム・ワーナーの株主は45パーセントをそれぞれ保有することになる。タイム・ワーナーのメディアやエンターテインメント、ニュース分野におけるブランド力と、AOLのオンライン市場でのブランド力および技術が統合され、インターネット/メディア市場に巨大企業が誕生することになる。

とのこと。

これにより、AOL、Time、CNN、CompuServe、Warner Bros.、Netscape、Sports Illustrated、People、HBO、ICQ、AOL Instant Messenger、AOL MovieFone、TBS、TNT、Cartoon Network、Digital City、Warner Music Group、Spinner、Winamp、Fortune、AOL.COM、Entertainment Weekly、Looney Tunesといった企業がこの会社の傘下になり、エンターテインメント分野などにおいて世界有数の巨大企業が誕生したことになり、世界から大きな注目を浴びました。

そしてこの合併は、事実上はAOLによるタイム・ワーナーの買収であり、ネット系企業が既存の出版、映画、放送系企業を買収するという形になったことは、ITバブルの象徴的な出来事でもありました。


ITバブル崩壊とAOLの衰退



Vintage AOL T-Shirt / The Eggplant


しかし、2002年あたりになると、ITバブルも崩壊。そして通信サービスの契約数も頭打ちになってゆき、AOLの主力分野であった通信分野の優位性が失われてゆきます。そして、AOLタイム・ワーナーも驚異的な赤字(2002年の最終赤字は1000億ドル)を計上することになってしまいました。
合併当時は「世紀の合併」と言われたものは、わずか3年で「世紀の失敗合併」と言われるようになってしまいます。

その結果、2003年にはAOLタイム・ワーナーの社名はもとのタイム・ワーナーに戻り、AOLはその一部門となってしまいます。

「AOL」が消える--米タイムワーナー、社名変更で本業回帰に拍車 - CNET Japan(2003年の記事)

この合併が失敗となった原因などは、数々の人から語られていますが、以下にその一部を。

元会長のS・ケースが「AOLタイムワーナー」の合併失敗を語る - CNET Japan
10年目の独白「世紀の合併」はなぜ失敗したのか AOLタイムワーナーのレビン元CEO


AOLの日本での展開



Typefaces, much? / Seth W.


日本でもAOLは展開しておりました。先述の通りインターネット事業も行って、セットアップCDを配ってもいました。ちなみに一時期はNTTDocomoと提携をしていました。

■参考:ASCII.jp:AOLジャパン、“株式会社ドコモ エーオーエル”に社名変更──新AOLクライアントも発表(2001年の記事)

その後NTTDocomoは資本撤退、2004年にイー・アクセスに譲渡されますが、その後2009年1月、接続事業とポータル事業に分離し接続事業をイー・アクセスが、ポータル事業を外部にAOL Asiaが行い、イーアクセスが運用支援を行う形にすることになりました。

イー・アクセスがAOL事業を再編、ポータル事業は外部に(2008年の記事)

現在のポータルは以下。

WELCOME TO AOL.JP


AOL、タイム・ワーナーから分離、独立


そして、タイム・ワーナーの一部門となったAOLですが、2009年12月、とうとうタイム・ワーナーから分離、独立することとなります。理由は赤字削減のためと言われています。

AOL、タイム・ワーナーから分離・独立を完了 国際ニュース : AFPBB News


AOLの今後は?


AOLの今後ですが、いろいろな意見が聞かれますが、悲観的な意見も少なからずあるようです。

AOL、ユーザー基盤衰退でアナリストは悲観的

また、こんなニュースも。

8億5000万ドルをどぶに捨てたAOL タイム・ワーナーとの合併と同じくらいの失策か JBpress(日本ビジネスプレス)

しかし、何か大きな上向きの動きがある可能性も否定できません。最近でも、以下のようなニュースが。

【BusinessWeek特約】米AOL、ネットニュース事業を強化 | 企業・経営:ニュース・解説 | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
■AOL、ヤフー買収を検討…米紙報道 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) ※リンク切れ

いろいろと注力しているようです。

アメリカでは現在Googleが検索最大手で、以下Microsoft、Yahoo、で、AOLは第4位。しかし、ここでYahooとAOLが組むと、情勢が少しは変わるかもしれません(変わらない可能性もありますが)。