「ホワイトバンド」というものを覚えておいででしょうか。2014年の現在からしたらもう10年くらい前にもなりますが、一時期話題になったもので、触れ込みは『世界中で白いリストバンドを付けて「貧困を世界の優先課題に」と訴える意思表示をする』というものでした。しかし、この触れ込みより、背景の不透明さがネットで話題となりました。

Make Poverty History
Make Poverty History / hibino



ホワイトバンドって何?


最初に「ホワイトバンド」なるものの説明から。これは日本独自のものではなく、世界各地で貧困をなくすべきキャンペーンとして、「お金ではなく、あなたの声をください。その声をあらわすホワイトバンドを身につけてください。」という共通テーマに基づき行われていた運動で、それに使われていたのがホワイトバンド。その運動が日本に来た、ということです。

これを持ち込んだのは、マネジメント会社株式会社サニーサイドアップ。そして、「特定非営利活動法人ほっとけない 世界のまずしさ」が中心となり、NGOのメンバーによって組織された『「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン」実行委員会』が中心となってこの運動が行われ、中田英寿などのスポーツ選手が無償で広告など広報に参加します。そして2005年ごろには、各地でこのホワイトバンドが販売されるようになります。


日本版ホワイトバンドへの批判



eatable whiteband / orangeobject


しかし、日本におけるその運動には、主にネット上において数々の問題点が指摘されました。

ひとつは、広報の方法が芸能人などを使うファッション的なものになってしまったこと。もっともこれらの慈善活動では著名人が携わることが珍しいことではありませんが、偶然か意図してのものか、それが前面に出てしまいすぎ、本来の運動の意義が流行性に押しつぶされ「貧困をダシにしているのではないか」と思わされた人がいたようです。
さらに、この運動のためにリストバンドが1個300円で発売されたのですが、本来世界で行われているキャンペーンではその「ホワイトバンド」自体は重要ではなく、たとえば白い布などでもよかったのです。しかし日本ではそれ自体がファッションとして扱われた面もあり、それに嫌悪感を抱く人も存在しました(これも偶然か意図してのものかはわかりませんが)。

そして、一番問題視されたのは、そのホワイトバンドの収益はすべて製造費や活動費で、募金として使われないため、貧困をしている人のもとに届かずないこと。おまけに製造が貧困国で行われていなかったこともあります。さらに、その活動費が流れる団体の活動が不明瞭だったこともあり、ネット上では「募金詐欺の類ではないか」との噂が流れ、反発が強まります。

■参考:ホワイトバンドプロジェクト - Wikipedia


ホワイトバンド活動終了


そのホワイトバンドですが、2006年以降には殆ど話題にはならなくなってしまいました。一応団体としては活動していたようです。しかし、10月末解散するとの発表がなされました。

■特定非営利活動法人:ほっとけない 世界のまずしさ | Global Call to Action against Poverty ※リンク切れ
■参考:ホワイトバンド終了のお知らせ - 関心空間
■参考:ニセモノの良心 : 「ほっとけない世界のまずしさ」を放り出した「ほっとけない世界のまずしさ」

これで、日本版ホワイトバンド運動は終了することになるでしょう。


日本版ホワイトバンド運動のミス


さて、この運動は何だったのか。ネットでよく言われるように、貧困をダシにしての商業活動だったのか。あまりはっきりとは言えませんが、個人的には本当に商業活動をするなら、流行に任せてバンドの単価を500~900円くらいに上げていたでしょうし、ネットで言われるほどとは?とも思われます。
それに非難を交わそうと思えば、そのうち半額を募金に回すと宣言すれば幾分和らいだはずです(さらにその募金先は、中抜きをする団体を通すと)。
ちなみに後年、ホワイトバンドをもってきたサニーサイドアップが語ったところによりますと、製造原価や流通経費などの必要経費を除いた分はすべてNGOの政治活動資金となったので、サニーサイドアップは多額の赤字を出したということ。

ただ、意図はどうあれ、手法として失敗したのではないかと。それは最初にブームに乗せるような形にしてしまったこと。この手法は一時的に盛り上がるのはいいのですが、このように次に繋げなければいけない(貧困を考える)時には、もっと啓蒙活動をしなければいけません。しかし行われたアピール方法ではファッション性ばかりが強くなってしまい、貧困に対しての説明が浅すぎたのではないかと。実際、ホワイトバンドをつけていた人のうち、その貧困の実態を一部でも知った人はどのくらいいるのでしょうか。ましてや行動に移した人は。

さらにそういうものでブームを起こしてしまった場合、ブームが終わったら離れてゆく人が多いのですから。ホワイトバンドにしても、本当に貧困を考えるのでしたら、細く長く活動してゆき、少しずつその問題意識を根付かせるべきだったのではないでしょうか(実際に地味ながらそうやって活動している団体もあるでしょう)。日本の災害援助にも言えることですが、募金は短い期間に多く集まりがちですが、本当はそれよりもどれだけ長くそれを忘れないで、援助が出来るかのほうが大切なのではないでしょうか。残念ながら日本版ホワイトバンド運動は、それと真逆になってしまった感はあります。

ただ、それであっても貧困に対して行動したという面においては、何もしなかったよりはその意図は評価はすべきかもしれません。だけどそれ以上に、このように目だたなくても、貧困のために日本なり現地なりで力を尽くしている人もいることも同時に思い出すべきでしょう。


NGO・NPO不信


あと、この問題の根本的なところには、今の日本の若年層(特にネットユーザー)には「非営利団体不信」のようなものがあるように思えます。それは近年、NPO、NGOを使った、もしくは名を語った詐欺などの違法行為や、そこまでいかなくても営利活動につながる行為が指摘されているためです。『クロサギ』にも、それを扱った話がありましたね。

■参考:政治ニュースコラム>NPO/NGO団体の詐欺:行政書士試験に出る判例

クロサギ 15―戦慄の詐欺サスペンス (15) (ヤングサンデーコミックス)


ホワイトバンドの件は、この不信の被害者でもあるかもしれませんし、加害者かもしれません。
いずれにせよ、これからのこういった活動は、すべてをちゃんと透明化しないと、まともな意思を持つ人たちの活動までもが阻害されてしまうことになりかねないでしょうか。