以前、『空気を読まない中杜カズサ』のほうで、「ジンバブエで起きてるハイパーインフレについてのメモ 」というのを書いたのが、2008年の3月。そしてその後選挙が行われて大混乱となったまではよくニュースで出てきたのですが、その後ニュースソースが無くなってきました。
しかしハイパーインフレはそう簡単には収束しないでしょうし、動向が気になっていました。というわけで今回、調べてみることにしました。

※この文章は2008/10/15に書かれ、状況は当時のものです(2016/1/7、リンク切れ等若干修正)。
One Million Dollars
One Million Dollars / barbourians



ジンバブエの歴史その1・独立と経済混乱スタート


まず、基礎知識から。現在アフリカのジンバブエでは、世界一のハイパーインフレが巻き起こっています。その理由は主に、ムカベ大統領の独裁による、極端な政策によるものと言われています。それに関しては有名なコピペがあります。
ジンバブエの簡単な解説 今までずっと少数派の白人が政治の実権を握っていたが、民主的な選挙で、黒人政治家が増える
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とうとう初の黒人大統領が誕生
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何を思ったか「植民地時代に強奪された白人の土地資産を黒人へと無償かつ強制的に権限を委譲しなさい」法案を提出

大半の白人が安値で土地資産を売り払って外国へ。

今度は外資系企業に対して「保有株式の過半数を譲渡するように、逆らったら逮捕」法案を提出 ↓ 外資系企業が国外逃亡する
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別に国連もアメリカも、どこの国も経済制裁してないのに、経済制裁と同じ状態に陥る
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何もかもの物資が国内で不足するので、「市場に出回っている物資が不足するなら、物資を持つ物は絶対に市場に売らないといけない」法案を提出 ↓ 物資の強制売却で、さらに物資不足が深刻化。当然需要と供給バランスが崩れて高値になる。

物資が高値に成り過ぎて買えない人が続出

「物資を絶対に安値で売らないといけない」法案を提出
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調達コストよりも遥かに安値で売らないといけなくなったので、当然のごとく利益が出ないから国内企業が次々と倒産する

安定していた経済が、脅威の失業率 & ハイパーインフレ になるのを一年も経たずして達成。おめでとう。

失業者があらゆる物資を強奪し、社会不安が増大、交通機関や警察機関も機能しなくなる。政治も収拾がつかず無茶苦茶に。


信憑性もまあそれなりというのがこの手のコピペの常ですが、全く外れているわけでもないのです。
「何を思ったか」のところは、乱心したようにも見えますが、調べてみると、こういう行動をとったのにもちゃんと理由があったようです。

もともとこの国は第一次世界大戦後にイギリスの植民地に組み込まれ、イギリス領南ローデシアとなりますが、国土のほとんどは白人農場主の私有地となり、住民達は先祖墓参りの自由すらないくらいの厳しい統治下に置かれていました。しかし、1960年代から黒人による独立運動が行われ、白人政府と内戦状態になります。
そして1980年の総選挙の結果、ジンバブエ共和国が設立され、黒人政権が樹立します。そして1987年より、現大統領ロバート・ムガベの独裁が始まります。ただ、この時点ではこの国はアフリカ有数の農業国でもあり、食料が足りていたというのもあったのか、一般民衆レベルでは黒人と白人の表面的な争いはそれほどなかったとも言われています。

彼は最初こそ白人と黒人に宥和政策を進めましたが、すぐにそれが行き詰まります。それはイギリスから手に入れるはずだった独立援助金がほとんど手に入らなかったこと、それに経済政策に失敗したこと。最初はその収入をあてにして白人の持っている農場を平和的に買収して、それを黒人に分配するつもりだったらしいのですが、これが頓挫してしまいます。
しかしすでに黒人、特に紛争時に活躍した人には恩恵を授ける約束をしているのに、それが履行されないと、不満が大きくなってゆきます。  そして1990年代半ばになると経済は混乱し始め、だんだんと大統領に不満が集まりはじめます。1997年には、IMFに支援を求めましたが、土地問題での譲歩を拒否したため、断られたということです。そしてインフレが加速します。


ジンバブエの歴史その2・ムカベ大統領の独裁


そこで2000年8月、ムカベ大統領がとったのが、コピペの「植民地時代に強奪された白人の土地資産を黒人へと無償かつ強制的に権限を委譲しなさい」法案。これにより白人が土地を売り払って外国に出てしまったのですが、その農業技術や経営ノウハウまでも同時に流出してしまったために、アフリカ有数の農業国であったこの国は、一気に食糧不足となってゆきます。

しかもそれに先駆けて1年前、ジンバブエは隣国コンゴの内戦を鎮めるために派兵します。表向きこそコンゴのカビラ大統領の援助ですが、その裏にはこの国でムカベ大統領が所有していたダイヤモンド鉱山を守るためという私的な事情もあったようです(もちろんその他資源を狙っていた可能性も高いですが)。前述の政策は、その批判を逸らすものであったとも言えるでしょう。

そして2007年8月23日、国内の外資系企業に対して株式の過半数を「ジンバブエの黒人」に譲渡するよう義務付ける法案を国会に提出、9月26日に通過した。これにより外資はほぼ逃亡。そのほか焼け石に水な法案を出しますが、こうなるとハイパーインフレを止めることはできません。そして日増しにその勢いは加速してゆきます。

■参考:ジンバブエ - Wikipedia


ジンバブエにで行われている非人道的行為


ちなみにコピペはお笑い系を含みますが、この影では多くの野党支持者や反政府者が弾圧され、処刑されていることも付け加えておきましょう。

2005年5月には、地方の貧しい都市地域および周辺都市地域を標的に大規模な強制退去と住居破壊を行うという「ムラムバツビナ作戦」も行われています。

さらにこのあたりで、白人の農場に黒人が押しかけて占拠するという事件も起きていますが、これも民族主義を煽るムガベの意図だったと言われています。

■参考:ジンバブエ:煽られる人種対立


混乱する選挙


ここからは例のコピペの続きになります。2008年3月29日より大統領選挙が始まり、野党がムカベ大統領下ろしにかかったのですが、1度目の選挙の結果が何故か公表されず、過半数をとってないから決選投票という宣言がなされます。その後決選投票の無効を求める野党を弾圧、投票を強行し対立候補が強引に下ろされ、一方的勝利宣言をします。

これに対して同年7月11日、国際連合安全保障理事会にジンバブエ政府非難と、ムガベ大統領ら政権幹部の資産凍結・渡航禁止などの制裁決議案が提出されますが、中国とロシアが内政問題であるとして拒否権を発動し、否決されました。

ちなみに中国はこの頃アフリカ諸国に援助をしており、ジンバブエもそのひとつでした。4月にはジンバブエではおそらくは野党弾圧のため中国から武器(AK-47自動小銃の弾薬300万発、携行式ロケット弾1500個、迫撃弾3000個以上などが含まれているという)を輸入しますが、これを積んだ船舶の荷下ろしを南アフリカが拒否。その結果船がさまよい続けることとなりました。その後積み荷はアンゴラ経由で入ったそうです。

南アフリカ、中国船のジンバブエ向け武器の荷下ろしを拒否 写真4枚 国際ニュース : AFPBB News
中国船のジンバブエ向け武器、アンゴラ経由に変更 国際ニュース : AFPBB News


現在の政局と経済


その後も国内は混乱し、ようやく野党と与党の間で話し合いがもたれ、連立政権樹立を盛り込んだ合意書に署名しましたが、主要閣僚の人選をめぐり与野党の話し合いが難航しており、今も経済危機が続いているとのこと。そしてハイパーインフレも相変わらず進行中です。

■参考:世界で最も価値の低い通貨トップ5 - GIGAZINE

物価上昇率は約220万~900万%(加速度的なインフレにより、実体は不明)、失業率は約80%(2007年:政府発表)(実体は不明)とのこと。

以下に、実際にジンバブエのインフレを体験された例がわかりやすく、そして詳しく書かれていました。

■青年海外協力隊体験記 ジンバブエ インフレーション ※リンク切れ
ジンバブエの2008年3月のインフレ率が過去最高の355,000%に達成したと政府統計局から発表がありました。年率355,000%%の意味は、一年前の物の値段が約3550倍になったということです。日本だと、100円ショップの名前をを355,000円(35.5万円)ショップに変更する感覚?なのです。



今なお続くハイパーインフレ


しかし、ここで驚いてはいけません。上記のは約半年前のもの。では今のインフレ率はいくらか。なんと発表された7月の値は2億3100万%とのこと。

■Zimbabwe July annual inflation jumps to 231 million percent - Investing | Africa - Reuters.com(英語) ※リンク切れ
■参考:ジンバブエ・ドル - Wikipedia

;ただし、あまりにゼロがつきすぎたために、デノミネーションが2008年8月1日行われ(それ以前にも行われていたのですが)、ジンバブエ・ドルは10桁切り捨てられました(100億ジンバブエドル→1ジンバブエドル)。ただ、このハイパーインフレの中では、デノミも焼け石に水としか思えません。ましてや世界経済の混乱がこの国にどう影響を及ぼすのかは全くわかりません(あ、でも海外と経済的連結が断たれているからなあ)。

デノミネーション - Wikipedia


おそらく、政治的、経済的混乱はまだ続くでしょう。
最近は一応は小康状態といったところでしょうか。あとジンバブエドルではなく、米ドルがかなり流通しているのかな(少なくとも外国人に対しては)。

■参考:超インフレの国ジンバブエはいま | エキサイトニュース ※リンク切れ

ともあれ、この混乱が収束することを願っています。



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追記・2016/1/7


このエントリーを書いた翌年の2009年、ジンバブエドルに変わり米ドルなどがジンバブエで流通し、事実上の公式通貨となります。これによりハイパーインフレは収束を見せました。
その後2015年にジンバブエドルは完全に廃止。米ドルに交換されることになりますが、レートは1ドル=3京5千兆ジンバブエドルだったとのこと。

ただ、今年92歳になるムカベ大統領の事実上の独裁は今でも続いています。

また現在でもHIVやこれらの流行が同国の深刻な保険的問題となっているようです。