2006年11月、とある鉄道会社のホームページに文章が載せられました。そのタイトルは「銚子電鉄商品購入と電車ご利用のお願い」

『(前略)弊社は現在非常に厳しい経営状態にあり、鉄道の安全確保対策に、日々困窮している状況です。年末を迎え、毎年度下期に行う鉄道車両の検査(法定検査)が、資金の不足により発注できない状況に陥っております。このままでは、元旦の輸送に支障をきたすばかりか、年明け早々に車両が不足し、現行ダイヤでの運行ができないことも予測されます。 社員一同、このような事態を避けるため、安全運行確保に向けた取り組むことはもちろんですが、資金調達の為にぬれ煎餅の販売にも担当の領域を超えて、取り組む所存でおりますので、ぬれ煎餅や銚子電鉄グッズの購入、日頃の当社電車の利用にご協力を賜りたく、お願い申し上げる次第でございます。』

「電車運行維持のためにぬれ煎餅を買ってください!! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」という直球な言葉と共にこの文章を掲載したのは、千葉のローカル私鉄、銚子電鉄。
このあまりに切実さが伝わってくる文章がネットで広がり、「銚子電鉄を助けよう」という動きが広まったのを覚えている方もいらっしゃると思います。
銚子電鉄 外川駅
銚子電鉄 外川駅 / puffyjet



そもそも何故、銚子電鉄はピンチに陥ったのか


銚子電鉄が経営不振に陥ったのは、何もローカル線特有の赤字問題だけではありません。実はこれは、経営危機に陥る前に社長となった人物が、総額約1億1000万円の業務上横領を行っていたためでした。銚子電鉄名義で行った借金は、自分が社長を務める建設会社や個人の借金返済に充てるなど、全額を着服したとのこと。また自分の会社に大量の仕事を発注させて駅舎の改修工事をさせるなどしたため、県と銚子市の補助金を停止させ、金融機関の融資凍結を招きました。
しかし、このような事情があっても鉄道運営上は安全のために避けられない車両法定検査は2006年11月に迫っていました。


必死な訴えに応えてのぬれ煎の爆発的売れ行き



Nure Senbei (Choshi, Chiba, Japan) / t-mizo


そして最初の切実な発表になります。
それがネットで話題となり、同社が資金獲得のために販売していたぬれ煎餅の購入希望者が殺到します。ここまで好感を持たれたのは、あの必死な訴えなのに、募金を求めるなどではなく、あくまで自分の事業であるぬれ煎で資金を獲得しようとした姿勢があるかもしれません。そしてたちまち売り切れ状態に。

ITmedia News:ネットで「銚子電鉄を救え」 名物「ぬれ煎餅」に注文殺到

このときの社員さんの申し訳なさそうな対応も、好感度を高める結果となり、実際に観光してみようという人も増えたそうです。


銚子電鉄サポーターズ


しかし法廷検査をクリアしても、今度は国土交通省関東運輸局から老朽化のための改善命令を受けます。そこで2007年1月、有志が「銚子電鉄サポーターズ」を設置、募金などを開始しました。

銚子電鉄サポーターズ

同会には当時千葉ロッテマリーンズ所属の小林雅英投手も特別サポーターとしていたということ。
そして改善命令の問題もなんとかクリアします。


その後



銚子電鉄 / Toshi K

2008年5月26日、銚子電鉄サポーターズは支援の成果を上げまして、一区切りとなります。ここまでの成果は、『2008年3月31日までに4698名から入会金として約1658万円、運営費のカンパなども合計すると約1882万円が集まり、同会はこれらの収入から安全対策基金として 1510万円(うち970万円は2007年に寄贈、540万円を2008年5月26日に寄贈)、老朽化した踏切看板の交換費用として約100万円を支出したとしている』と、かなりの金額が集まった模様。  また、ぬれ煎餅も好調で、黒字転換したようです。

しかし、2011年に大きな衝撃が襲います。それは言うまでもなく東日本大震災。これにより当時の日本各地と同じように観光客が減少し、自主再建を断念せざるを得ないことになります。しかし2013年12月30日には当面10年間の車両・設備更新費用7億6000万円のうち国が1/3・千葉県・銚子市がそれぞれ1/6を負担するという援助が受けられるようになります。そして、残りを銚子電鉄が食料品や鉄道事業などで負担する方針での経営再建策がまとまり、当面存続出来る方向ということです。
出来ればこのまま前のようなゴタゴタがなく無事に継続することを祈りたいです(どうもネットで調べてみると、ちょっと引っかかる話があるのだけど、信憑性も不明なのでここでは割愛。もし何かあったらそのうち書くかもしれませんが)。
ちなみに昔からネットでは「本業煎餅屋、副業鉄道」等と言われることがあるが、本当に煎餅事業の方がかなり大きいようです。もちろんそれで鉄道が続けられるのだからたいしたものですけどね。
一時期人手不足で休止していたぬれ煎餅の通販も再開しているようなので、贈呈品がいる時などは買ってみてもよいかもしれません。

銚子電鉄オンラインショップ