ここ最近ステマ(ステルスマーケティング)の問題について、ネットで少しずつ出ている感じがします。しかし、「ステマ」という言葉が広まったのは最近ではありません。
過去、ステマがこの日本で最も有名になったのは、おそらく2012年あたりで、多数の有名人を巻き込んだものではないでしょうか。何せその問題は国民生活センターなどの行政、はては警察まで巻き込む事態となりました。

その中核にあったのものは「ペニーオークション」略してペニオク。
money-1050403_1280
klimkin | Pixabay



ペニオクとは何か


まず、ペニーオークション(以下ペニオク)とはどういうものかという簡単な説明から。
文字の通りオークションシステム。発祥はドイツですが、有名になったのはアメリカで2008年に2008年にSwoopoという企業スタートしたもの。日本で広まったのは2009年頃から。たまに「ニーオークション」「ニオク」としているところがあるけど、通常日本では「ニーオークション」「ニオク」です。

同じネットを使ったオークションでも、このペニオクがヤフオクなどと違うのはその仕組みです。
普通のオークションは出品者Aと落札物αがあった場合、入札者B1、B2、B3……は値段を上げて入札し、落札権利を競り合います。そして最高値をつけたのがB1だった場合、落札権利を与えられ、代金を支払うとAからαという品物が送られます。そして代金のうち数%がオークション運営者であるCに渡り、それがオークション運営事業としての利益になります。

しかしペニオクの場合は、その入札毎に手数料がかかるという仕組み。つまりAがαという商品を提示して入札した場合、それを欲しいと思ったB1、B2、B3……は入札権利を得るために高値で入札しますが、その度に運営者Cに対して「手数料」を払うことになります(だいたい50~75円程度だったようです)。
つまり、普通のオークションが落札権利を手に入れられないと支払う金額も基本ゼロなのに対して、ペニオクの場合はたとえ落札出来なくても入札すれば手数料がかかってしまうわけです。

それでも入札は数多くありました。それは初期の設定額がゼロや1円という超低額であったこと。さらに出品されているものの大半が万単位の値段がする家電製品などであったことにあります。つまりうまくすれば、1円+一回の手数料でその高額商品を手に入れられてしまうわけですね。しかし実態はかなり違ったのですが、それは後述。

このペニーオークションに参入する業者は2010年前半から急増してゆきます。一時はネット上にそれらの広告が多く展開され、あちこちにペニーオークションサイトのバナーが表示されるということがよく起こっていました。


ペニオクの問題点


gavel-309599_1280
ClkerFreeVectorImages | Pixabay

しかし、2010年半ば頃から、このペニーオークションにおける問題点を指摘する声が出始めます。以下はその時期にペニオクの問題点を指摘していたブログエントリー。

怪しげなオークションサイトに気をつけろ(前編):ペニーオークションの問題点 | N-Styles
怪しげなオークションサイトに気をつけろ(後編):ペニーオークションサイトも騙されている | N-Styles

詳しくは上て書かれているのですが、要約して説明します。
まず、このペニオクのシステムでは前述のようにどんなに手数料を使って入札しても落札できなければ手数料の払い損になってしまいます。故にその商品を得るという以外にも、手数料分の損をしないために落札合戦になると心理が働きやすくなり、結果として落札額も高値になってゆきます。場合によってはその商品が本当に落札額に相当する製品なのがといういことに対して考慮が及ばないようになっても。
この損をしないために結果として金をつぎ込む心理を使うというのは、商売で非常によくあるものですね。最近だとソーシャルゲームのガチャとか。
しかも入札することによって増加する落札価格がこちらで指定出来ず、1~10円単位ということも多かったようです。つまり小刻みな入札で、その分手数料を多く取る仕組みとなっていたということです。

さらに問題とされたのは、ここに「サクラ」、つまり出品者のフリをした業者側の人間、もしくは人間ですらない自動システムであるBOTが存在するのではないかとされたことです。つまるところ、一般の入札者が入札すると、その価格をつり上げて落札額をつり上げ、さらに手数料を取るという業者側の人間orBOTが存在し、事実上安価での落札が不可能になっているのではないかと疑われるようになりました。こうなると明らかに詐欺的行為となります。それが落札の実例からだんだんと信憑性を増してきます。

ただ、そういうサクラをしなければペニオクのシステムが正常に働いたかというとそうでもありません。そうなった場合、一定の落札スキルを持ちそれのために仕掛けた集団が組んで、落札のための徒党を組んでしまい、一般の人が落札出来ないまま安値で落札してしまうような仕組みが出来てしまう可能性が十分あったからです。
つまり、ペニーオークションというシステム自体が、公正に行うことが著しく難しいシステムであったと言えるでしょう。ただ、前述のリンクにあるようにそれとわかっていてそのシステムを販売していたとなると、そこにも問題がありますが。

スポンサーリンク


style="display:block; text-align:center;"
data-ad-layout="in-article"
data-ad-format="fluid"
data-ad-client="ca-pub-9564096827392522"
data-ad-slot="2529435977">



ペニオク対する問題の声が大きくなる


このようなことがあり、問題の声が出てきます。しかし前述したように、2010年あたりではこのペニオクサイトの広告展開が激しく、それがかき消されていた面も大きいでしょう。
ちなみにペニオクの工作かアフィリエイト目的か、ペニオクの問題点を指摘していると見せかけて、ペニオクに誘導するというサイトも存在していたようです。

しかしそれでも問題の声は止まらず、徐々に大手メディアでもその問題点について声が出始めます。
2011年1月には、国民生活センターへの相談も増え、トラブルが急増していると警告が出されます。
さらに2011年4月には消費者庁から『いわゆる「ペニーオークション」運営業者に対する景品表示法に基づく処置命令』(PDF)として、不当に安く落札価格を見せかけているとして3業者に処置命令を発表します。

それに前後して撤退するペニオクサイトが出始めます。ただ、終了時の返金に関して明記しないところも多かったようです。

ペニーオークション情報は嘘だらけ。全部詐欺サイトと思ったほうが安全 | N-Styles
「3万円の人気ゲーム機が3000円!」で噂を呼ぶ「ペニーオークション」。その「怪しい正体」 | SAFETY JAPAN [セーフティー・ジャパン] | 日経BP社
入札のたびに手数料が…!“ペニーオークション”のトラブルが急増(発表情報)_国民生活センター
ペニーオークションで撤退相次ぐ、返金に応じない事業者も -INTERNET Watch
次々と閉鎖するペニーオークションサイト | N-Styles


ペニオクに対し警察が動き出す


handcuffs-308899_1280
ClkerFreeVectorImages | Pixabay

その後2012年8月、消費者支援機構がペニーオークションサイトのひとつ、ダイヤモンドオークションに対して団体訴訟を起こすと通告。すると同サイトが閉鎖。
そして2012年12月、ペニオクサイト「ワールドオークション」において出会い系サイトを運営していた運営会社の社員4人が逮捕されます。

逮捕容疑は詐欺罪。つまりBOTによる自動入札を行っていて、一般入札者の落札額が1000万円に達しない限り延々とBOT入札され続けて落札出来ず、手数料だけ取られるという仕組みでありました。実際、商品は用意されていなかったようです。それによって詐取した手数料は、6000万円にも及んでいたようです。

その逮捕がきっかけとなり、一気に閉鎖。ほとんどのペニオクサイトが消滅します。

「ペニーオークション」で逮捕 詐欺容疑、入札ごとに手数料  :日本経済新聞


芸能人のステルスマーケティング(ステマ)問題


money_stema_stealth_marketing
いらすとや

ペニーオークション騒動ではその本体ともう一つ、ワイドショー的な意味では業者よりも話題になったものがあります。それは芸能人がブログなどでペニオクのステルスマーケティングを行ったこと。

当時複数の芸能人が高額商品をペニオクで安価で落札したようなことを自身のブログで書いたのですが、実際はそれは自分で落札したものではなく、依頼されて行ったステルスマーケティング(ステマ)を行ったことが明らかになります。
それらについて、以前から「ステマではないか」という検証がなされ、その噂が立っていました(以下の記事は2011年初頭)。

なぜ芸能人はペニーオークションで落札できるのか? | N-Styles ※
ペニオクで確実に落札できる方法!!!!! - 今日も得る物なしZ

それらも問題が逮捕をきっかけにして浮上してきました。
上記のほか、芸能ニュースなどで具体的に名前が出たのは(立件されたワールドオークション以外のペニオク業素も含む)、松金ようこ、ほしのあき、ピース綾部、熊田曜子、小森純、東原亜希、永井大、菜々緒など。ちなみにステルスマーケティングが行われていた時期は、前述のように広告が濫発されていた2010年末あたりでした。業者から芸能人に渡った金額は数万、多い場合で40万にも上ったようです。

事実上ペニオクの広告塔となっていた芸能人には非難の声が挙がります。さらに逮捕された業者が運営していたペニオクのステマを行っていた芸能人は、警察の事情聴取もあった模様。その後、バラエティ番組でネタにされたりしていました。

「1080円で落札したの(^O^)/」――ペニオク詐欺で波紋 ほしのあきさん30万円で“ステマ”請け負う - ねとらぼ
ほしのあき「30万円」で詐欺サイト広告塔 - 芸能ニュース : nikkansports.com
ピース綾部、熊田曜子もオークション詐欺“広告塔” 巨乳に注意! - 芸能 - ZAKZAK
小森純ペニオク謝罪も共演者「許さない」 - 芸能ニュース : nikkansports.com
“ペニオク仕組み知らなかった”ほしの、松金立件見送り ― スポニチ Sponichi Annex 芸能


現在のペニオク


computer-1185637_1280
janeb13 | Pixabay

現在、日本にペニーオークションサイトは存在しません。
立件された業者の主犯は2013年5月に懲役3年執行猶予5年(求刑・懲役3年)、社員3人は懲役1年6月執行猶予3年(求刑・1年6月)の判決が下りました。

2014年末、一時期ペニオクを運営していたDMM.comの社長が対談でその時のことを語りました。

【公開対談】エロからエコまで…DMMが手掛けたペニオクでは10億円以上の赤字 - ライブドアニュース

問題となった、ステマをしていたとして非難された芸能人ですが、今でも芸能記事の引き合いに出されるケースはよくあります。復帰して活動を継続している人もいますが、テレビやラジオといったメディア活動がほぼ途絶えている人もいます(ただしこれが原因ではなく、育児での活動自粛という可能性もありますが)。
以下は最近見かけた関連芸能記事。

あの松金ようこがグラビア再始動に向けて密かに復活! - エキサイトニュース
武豊に失言、ほしのあきと離婚秒読み? 、そして暴力団……三浦皇成騎手の「不運」と「自業自得」 - エキサイトニュース(1/2)
“ペニオク騒動”が尾を引いて……「出産を取材させた」熊田曜子に批判殺到の裏事情 - デイリーニュースオンライン



同じようなステマ問題はこれから起こり得る


今、ステマが話題になっており、それが横行しているとも言われています。それは芸能人ブログに限らず、ネットメディアなどにおいても。
しかし、もしそれがこのペニオクのように将来宣伝した側に問題が生じ、そのステマが発覚した時、また同じように宣伝した側の責任問題が問われる可能性は十分にあり得ます。

今ならば、芸能人に限らず、ブロガーやYouTuberなどにもその手の話を持ちかけられていても不思議ではありませんが、持ちかけられる側はかつてペニオクで起こったようなリスクを十分に意識しておいたほうがよいのではないでしょうか。
そして読む側も、ある人が進めているからと鵜呑みにせず、それが本当によいものか、手を出す前に一考する癖をつけたほうがよいでしょう。


//----------------------------

その他参考

ペニーオークション詐欺事件 - Wikipedia