大阪、道頓堀は1612年より安井道頓の主導で開削が行われ、大坂の陣で戦死した後事業が引き継がれて1615年に完成。その安井道頓の功績を称えて「道頓堀」と名付けられました。
そして2015年の今年、開削400周年を迎えます。

この道頓堀は今では大阪を象徴する場所の一つとして有名ですが、数年前からここにとあるものを作るという計画が持ち出されて話題になっていました。その作られるものはプール。

一時期盛んに言われたこの「道頓堀プール」の計画、それがどうなったのかを今日は書いてゆこうと思います。
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Dotonbori_Shinsaibashi_Osaka_Kinki_Kansai_Japan_道頓堀_心斎橋_大阪_近畿_関西_日本_2 / hans-johnson



道頓堀プール計画の発端


「道頓堀プール」の話が初めて出てきたのは、2012年の1月。

大阪府及び市の府市統合本部会議において、当時内閣官房参与であり府市特別顧問も務めていた堺屋太一氏が、大阪を盛り上げるための10大名物の提案を行いました。その中に含まれていたのが「道頓堀に民間主導で巨大なプールを作る」という計画。それは1kmにも及ぶもので、主な目的は観光的な目玉。そこで世界的な遠泳大会を開催するということも提案されました。
それに対して、橋下市長も意欲を見せていました。

その後、地元商店会や南海電鉄などによる「道頓堀プール準備室」が発足。そして2012年の7月31日、基本計画を発表。
完成の目標は2015年夏。つまり道頓堀川の開削から400周年になるのに合わせたものとされています。


プールの計画内容


さて、道頓堀川をどうやってプールにするのか。これは何も道頓堀川を工事して一般的なプールにし、泳ぐような感じにするのではありません。それは費用がとんでもないことになりますし、そもそもそこは川なわけで出来ません。

その計画は道頓堀川に布函という、布でできた箱のようなものに発泡スチロールのような浮き材を付けて浮かべ、そこに水道水を入れて水槽のようなプールにして、それを川の両岸や遊歩道、橋桁に係留するというものありました。つまり道頓堀川にプールを浮かべる形になり、川は下を流れるという感じ。

基本計画では全長は東側上流の日本橋から西側下流の深里橋までの約800メートルで、30メートル程度の布函を複数連結させる形。幅は道頓堀川いっぱくくらいの12~15メートル、深さは1.1~1.4m程度。
また、大雨などで増水する危険があるときは、布函の最上流部と最下流部の隔壁を取り外して、プール内にも川の水が流れるようにする、という想定だったようです。


次々指摘された問題点



DSC_0305 / Marufish


しかし、この計画には、当初から疑問の声があがります。

まず衛生上の問題。たしかに近年道頓堀川の水質は昔に比べて浄化されてきていたようですし、そもそも川の水で泳ぐわけではないですが、それでも歓楽街である道頓堀の川で泳げるかという問題が指摘されました。道頓堀といえば昭和の阪神優勝時にカーネルおじさん人形が投げ入れられたので有名ですが、安全が絶対視されるプールにおいてカーネルおじさんではないにしても何か(たとえばビンなどのガラス)が投げ入れられる様な状況えを排除出来ないもとで安全が保たれるかという疑問が出てきました。

あと、道頓堀川で泳ぐとなると、その姿が当然街を通る一目にも晒されるわけで、その視線に耐えられるかという指摘もありました。

また利用料についても指摘がありました。想定では利用料金は一時間2000円、以降一時間毎に1000円とされましたが、この料金は少なくともプールとしては割高なほうになります。しかしそこまでして道頓堀で泳ぎたいか、そして集客が見込めるのかとなると、疑問の声がありました。

さらに道頓堀、及びその両岸のスペースは限られていますが、それをプールのビーチとなる部分で占有することにおいて、既存のそれらの場所を必要としているものの障害にならないか、という問題。同時に公道である部分を占有するのであれば、それは民間事業としてOKなのかという問題。

その上水の通り道である川にプールという障害物を設置することにより、水が溢れる危険性も指摘されていました。特に津波の際川を逆流してくる水がプールによって溢れて洪水になる可能性が指摘されていました。
ほか景観の問題、深さが足りないから世界大会など出来ない、経済効果に対しての疑問、政治的な問題など数多くのことが指摘されていました。


入りたい人はどのくらい……?


2013年から2015年のなんば経済新聞のネット調査によると、「道頓堀プールに入りますか?」という質問に対し、「入りたくない」「絶対入りたくない」という回答が9割以上に上っていました。

なん経VOTE - なんば経済新聞

ネット投票の性質上その投票数が必ずしも正確とは限りませんが、ほかの場での意見も合わせて見ると、道頓堀プールへの期待は消極的なものも多かったことは否定出来ないでしょう。

また、2013年に大阪市で行われた中学生と橋下市長の話し合いにおいて、"橋下市長が「道頓堀プールで泳ぎたい人は?」と質問したが、手を挙げたのは1人。"だった模様。

朝日新聞デジタル:橋下市長、中学生議員にたじたじ 大阪市「子ども市会」 - 教育


「インパク」を連想させる?


実はこの計画が出ていた2013年あたりのネットでは、発案が堺屋太一氏であったこともあり、15年前行われた「インパク」のことを思い出してその顛末も含めて引き合いに出されるケースもありました。
「インパク」についてはこのブログでも過去に書きましたので、宜しければお読みください。


■関連:道頓堀プール発表、堺屋太一さん「東京オリンピックより経済効果は大」 - なんば経済新聞



資金難



DoTonBori. / MIKI Yoshihito (´・ω・)


この道頓堀プールについては橋下市長がよく発言していたこともあり、行政がかかわっているようにも受け止められがちですが、原則的にこの事業には税金は使われず、民間資金のみで運営するという形でした。
2013年の4月には地元商店会の関係者に加えて、吉本興行などの地元企業が出資し、準備会社「道頓堀プールサイドアベニュー設立準備株式会社」が発足。当時集まった金額は約2300万。

しかし、ここでさらに問題が発覚します。それは道頓堀川においては観光船が操業し、遊覧運営などを行っていたのですが、プールを設置するとそれの運行が出来ない、もしくは大幅に制限されることになります。大阪市が河川法に基づいた許可を出すには、地元観光船事業者の了解が必要でしたが、そのことで調整が難航します。


計画縮小


そして2014年の夏、当初800メートルとされていたプール案が、1/10の80メートルに縮小するということを発表。道頓堀の街を横断する感じのものから、やけに小さいスケールのものに変更となります。
オープンの期間も8月の一ヶ月限定とすることが、2014年の10月に決定。

この時点ですでに開始予定まで1年を切っておりましたが、課題はまだ山積みでした。
そしてそれが結果に影響します。


計画中止



osaka / Yuya Tamai


そして2015年の1月、道頓堀プール計画を進めていた準備会社は計画を断念するということが、出資者に伝えられました。

頓挫の主な原因とされているのは、必要と言われていた約30億円の資金が集まらなかったこと。前述の川で運行する観光船業者と折り合いがつかなかったこと、さらに、このプールを長期間営業するのに必要な運営会社も見つからなかったことでした。

そのため、大阪市は会社が提出していた河川の占用許可申請を却下し、中止となりました。


その後


開削400周年記念の一環として持ち上がった道頓堀プールですが、それは中止となりました。とはいえ予定されていた400周年イベントは、当然ながら商店街はじめあらゆるところで行われた&行われています(2015/12現在)

■参考:400周年記念コンテンツ | 道頓堀商店会

あと、橋下市長からは、来年以降の再挑戦の可能性についても発言があったようです。

【関西の議論】全長800メートル巨大「道頓堀プール」 橋下氏も意欲、世界の度肝抜くはずが…計画頓挫に追い込まれた裏事情(1/4ページ) - 産経WEST



道頓堀の活性化にプールがなくてはいけないのか



そうして、もちろん、道頓堀川 / Konstantin Leonov


正直なところ、最初のアドバルーンは大きかったものの、実現性、問題解決方法、そして何よりも需要をよく煮詰めないうちに走ってしまったことが最大の敗因だったと思われます。

地元関係者大阪、道頓堀周辺の活性化をしたいという思いはあったとは思いますが、本当に大阪の人や観光客に喜ばれるものは、必要とされるものはプールだったのか、というのはもっと考えてからでもよかったのではないかとも思います。

東京練馬住まいの私としては、同区内のとしまえんでいくらでもも入れて且つ種類も膨大に多いプールより、道頓堀に無数にあるうまい店のほうがはるかに魅力的なのですけどね。

地元では評価的に目立たないものであっても、そこで長年築き上げてきた「文化」のほうが、他の土地の人からは魅力的に映るものは多いです。逆に新しいものを性急に入れると、景観や雰囲気などにおいてそれを壊してしまう可能性も考えた上で、計画はしないといけないのではないかと思います。



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ほか参考

道頓堀川に「世界最長プール」、2015年実現へ-堺屋太一さんが基本構想発表 - なんば経済新聞
世界驚愕「道頓堀プール」の詳細を徹底解説 年間100万人の来場で、国内全域に波及効果 - なんば経済新聞
全長1キロ、「道頓堀プール」は実現するか  :日本経済新聞
道頓堀に巨大プール構想 課題は山積み
道頓堀プール計画の問題点まとめ - Togetterまとめ
道頓堀プール 15年夏に開業 1カ月限定、当初計画の10分の1  :日本経済新聞
道頓堀プール計画、中止に 資金繰りや調整難航:朝日新聞デジタル