「小麦アレルギー」という単語がニュースを賑わしたのは2010~11年頃でしょうか。

食品アレルギーは、アレルギーを持っている人がその物質の含まれるものを口にすると、アナフィラキシーショックを起こしてしまうために、それら入った製品を口に出来なくなってしまうというものです(人によっては触れただけで症状が出ます)。重篤な場合は呼吸器などに影響を与えて、生命の危機に至ることもあります。それらアレルギーに該当する物質としては、卵、牛乳など乳製品、えび、かになどの魚介類、穀物などが有名ですが、野菜や果物で反応する人もいます。普通の人には影響ないからといって当事者の説明も耳にせず無理に勧めたりすると、重大な結果を招く恐れがあるので、知識を共有すべきものでしょう。

そのアレルギーの一つが小麦アレルギーで、これはつまり小麦で作られた製品。すなわちパンやうどん、パスタなどの製品でアレルギー症状が出てしまうものです。

それがニュースで報じられた理由は、ある石鹸を使うことにより、小麦アレルギーを発症するという事例が報告され、厚生労働省が注意の発表したことが大きく報じられたからです。

その石鹸の名前は「茶のしずく石鹸」。
えるしっているか
えるしっているか / june29



「茶のしずく石鹸」とは


「茶のしずく石鹸」とは、2005年頃から発売されていた美容石鹸で、福岡県で化粧品・医薬部外品製造を行っていた企業、株式会社悠香(ゆうか)で販売されておりました。
CMによる広告展開もあり、九州から全国にと広まってゆき、2010年あたりまでには約4650万個の同製品を、のべ467万人に販売したと言われています。

2008年にはモンドセレクションで「金賞」を受賞しています。
ちなみに「モンドセレクション 茶のしずく石鹸」で検索すると、なんかやけにそれ持ち出して褒めてるサイトが出てくるのが気になりました(2015/10/19現在)。


「茶のしずく石鹸」の使用によるアレルギー報告相次ぐ



2D soap bubbles / fdecomite


しかし、その期間に石鹸の使用者から湿疹やかぶれ、そして小麦アレルギーを発症する例が多数報告され始めます。
国民生活センターから公表された危害状況の概要は以下の通り。
■危害の件数等
1)危害件数
 9月1日現在、PIO-NETには、「茶のしずく石鹸」に関する相談が1,309件寄せられている。そのうち、危害に関する相談は614件である。同じく、消費者トラブルメール箱には24件の危害情報が寄せられた(いずれも2004年3月~2011年8月31日登録分)。

2)危害内容・危害部位・危害程度
 危害内容は、「皮膚障害」が400件(65.1%)、危害部位は、「顔面」276件(45.0%)、 危害の程度は、治療期間「1カ月以上」が197件(32.1%)がもっとも多い。7月14日の公表時と危害件数全体に対する割合で比較すると、危害部位「全身」は8.1%、「治療期間1カ月以上」は7.4%増加した。

■主な相談事例
【事例】
 1年ほど前に茶のしずく石鹸をもらって使い始めたが、その頃から蕁麻疹(じんましん)が出ていて薬を塗っていた。使用しているのは2010年12月以前の回収対象品で、今回ニュースを見て驚いた。どのような症状が出ているのか教えてほしい。

小麦加水分解物を含有する「旧茶のしずく石鹸」(2010年12月7日以前の販売分)7月14日公表後の危害状況について(発表情報)_国民生活センター
小麦加水分解物を含有する「旧茶のしずく石鹸」(2010年12月7日以前の販売分)による危害状況について-アナフィラキシーを発症したケースも-(発表情報)_国民生活センター

このように、危険な症状になった例も報告され、関係者の間で問題の声が出始めます。

2009年頃には学会で、同社石鹸の「加水分解コムギ末」を配合した石鹸のアレルギー症状について発表され、その話題が広まってゆきます。
厚生労働省も10月15日、小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症についての注意喚起を行います。

小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について |報道発表資料|厚生労働省


自主回収



Soap bubbles / quinn.anya


2010年の秋頃から、販売元の悠香は注意喚起と返品対応のスタート。2010年12月7日時点において、それまでの茶のしずく石鹸の販売がストップし、翌日よりコムギ由来成分を取り除いた同名の製品が販売開始となります。

そして2011年の5月中旬、日本アレルギー学会において、茶のしずく石鹸におけるアレルギーについて学会発表があり、その通日後の5月20日、悠香、そして厚生労働省が自主回収を発表しました。

以下は厚生労働省の当該ページ。

「茶のしずく石鹸」の自主回収について |厚生労働省

次いで2011年6月7日に、消費者庁からも注意情報が出されます。

小麦加水分解物含有石鹸に関する情報 - 消費者庁

ただ、ここに至るまで消費者庁においては2010年1月に国民生活センターから、及び2010年10月に厚生労働省から情報提供があったにもかかわらず対応が遅れたことが報じられ、非難がわき起こりました。


何故小麦アレルギーが起きたのか



Risking my sanity / Dirk Duckhorn


さて、茶のしずく石鹸に含まれている加水分解コムギ自体は、使用感を増したり泡立ちをよくするなどの目的で、美容品でも多く使われております。そしてそれ自体でのアレルギーを誘発したという報告は確認出来ておりませんし、現在でも多くの製品で使われているようです。

ただ、アレルギーの原因とされた茶のしずく石鹸は、小麦の加水分解物の中でも「グルパール19S」(片山化学工業研究所が製造)という他社では使われていないものが使用されており、これがもともとアレルギーのない人にもアレルギーを引き起こしたものと日本アレルギー学会などでは見解が示されています。


集団訴訟



霞ヶ関を散歩ちう。 / cytech


その後、2011年から全国各地で茶のしずく石鹸による被害救済弁護団が立ち上がります。

そしてそれぞれの弁護団が、販売元の悠香、グルパール19Sの製造元片山化学工業、製造したフェニックス社に対して、製造物責任法(PL法)3条に基づく損害賠償を求める訴訟を起こしました。

弁護団が存在するのは北海道、秋田、岩手、仙台、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、長野、静岡、愛知、大阪、京都、兵庫、姫路、岡山、広島、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄で、それぞれの弁護団から訴訟が起こされております。


訴訟の行方はどうなったか



神戸地方裁判所 / mah_japan


上記のように集団訴訟が立ち上がったのが2011年、それから4年が経過した現在(2015年)どうなっているのでしょうか。

2011年から各弁護団とも被害を受けた人を募って提訴していたところが多いようですが、2013年で多くの弁護団で一区切りとなりました。

トータルとして原告の総数は1300人を超え、損害賠償請求額の総額は140億円超に上ることになった模様(参考として、弁護団の一つの福岡訴訟の原告数は合計で206人、請求総額は30億9000万円)。

それ以来今年まで複数回に分けて審理が進められてきましたが、やっと和解案が提示される段階に入ってきているようです。
そして、一部和解が成立した事例もあるようです。

「茶のしずく」訴訟和解 奈良の製造会社と福岡の販売会社が370万円支払い 福岡地裁 - 産経WEST
「茶のしずく石けん」の旧製品を使い、重い小麦アレルギーを発症したとして、福岡県の女性が販売した「悠香」(同県大野城市)と製造した「フェニックス」(奈良県御所市)に計約6200万円の損害賠償を求めた訴訟は1日までに、福岡地裁(高橋亮介裁判長)で和解した。両社が女性に見舞金として計約370万円を支払う内容。
 和解は7月3日付。製品の欠陥や法的責任は認めていない。
 旧製品をめぐっては、この女性とは別に全国で集団訴訟が起きており、係争中。


そして鹿児島地裁でも去年の秋に裁判所から提示された和解案を一部受け入れた人もいるようです。

ただ、これは裁判が長期化することで、被害者の負担が大きくなる人が和解に応じた模様。つまり長期化している中で、原告の被害者の心理的負担が大きくなってるのが窺えます。

大詰めを迎えた『茶のしずく』訴訟(前) | 健康情報ニュース.com
ただ、鹿児島地裁の和解案は、これまで進めてきた責任論・損害論の審理の結果を反映させた内容でなく、裁判所が早期解決のために提案したものだ。3社のうち、片山化学工業研究所は和解案を受け入れず、悠香とフェニックスが和解に応じた。和解金額は症状によって1人あたり約120万円~150万円。和解金は悠香が約60%、フェニックスが約40%を負担した。
この結果について鹿児島弁護団は、「和解金額は不十分で、納得した人は1人もいない。ただ、裁判がストレスになっている人もいて、これ以上裁判を続けたくない人は和解に応じた」としている。同裁判の原告1人あたりの請求額は、アナフィラキシーショック症状が出た人が1,500万円、アナフィラキシーショックに至っていない人が1,000万円だった。鹿児島地裁での和解金は請求額の10分の1程度の金額となり、東京弁護団や東京の原告らも強い不満を示している。


弁護団の経緯報告や報道を見ると、多くのケースで原告と被告の主張が食い違っている上、被告企業の間でも見解が食い違っていること、さらに被告の和解案に対するスタンスがそれぞれ異なっている傾向のようです。それが故に各地で協議が難航している模様です。

大詰めを迎えた『茶のしずく』訴訟(後) | 健康情報ニュース.com
 原告側の気持ちを逆なでする出来事が、5月19日に東京地裁で開かれた『茶のしずく』石けん損害賠償請求訴訟の第18回口頭弁論で起きた。悠香側の意見陳述で、悠香の代理人は鹿児島地裁で原告が和解案を受け入れたことを述べ、東京地裁でも鹿児島地裁と同様の和解案に応じないと、鹿児島地裁よりも金額が少なくなる可能性もあるという旨の発言を行ったという。
 この発言に弁護団は「今の発言は訂正すべき。弁護士法に違反するのではないか」と主張。裁判長も「鹿児島地裁と東京地裁は別」と指摘した。東京弁護団事務局長の中村弁護士は、取材に対し「(悠香側の発言は)原告が多数参加している法廷で言うべきことではない。7月に裁判所からの和解案が出されることが決まっているなかで、利益誘導につながる発言」と話している。
 鹿児島地裁での和解案は審議の経過を考慮していない内容だが、東京地裁から7月に出される和解案は、これまでの双方の主張を反映させたものになる見通しだ。この点について悠香側は、「裁判が継続中なので、質問には一切答えられない」としている。


最近の動向は弁護団によって違いますが、愛知弁護団のブログにおける活動報告が比較的新しいものとなっています。


「茶のしずく石鹸」のその後



Soap bubble / Raphael Quinet


このように大きな影響を及ぼした茶のしずく石鹸ですが、現在でも同名の商品が同社サイトにて販売されています。但し前述のように、問題となった加水分解コムギ(グルパール19S)は抜かれているものとのこと。
ちなみに他社の市販のシャンプーや美容品などにおいても「加水分解コムギ」が原料に使われていて目にすることもありますが、グルパール19Sではないものであれば、特に被害は報告されていません(心配な場合その都度情報を調べることをおすすめいたします)。

ちなみに株式会社悠香は、2010年12月に事業毎に分社化され、グループ経営へと移行しております。



二度と同じようなことが起きないために


回収からはすでに4年、そして製品の販売からはもう10年が経とうとしています。そして、被害を受けた方でその影響を今もなお持っておられる方は当然今でも大勢おられるようです。しかし前述のように現在も大部分の訴訟は継続中です。裁判は被告にとって心理的、身体的、場合によっては金銭的にも大きな負担となるので、一刻も早い解決が望まれます。

しかし美容品に限らず、食料品、医薬品など、人間の身体に触れるもので、いつ同じような、もしかするとそれより重篤な結果を生み出してしまうものが世の中に放たれる可能性は十分あり得ると思われます。実際に2013年7月にはカネボウの製造した美白製品において、肌に白いまだらが発生する例が生じ、自主回収となっています。

<大切なお知らせ> 医薬部外品有効成分 「ロドデノール」配合製品に関する問題について

問題が起き、それを放置するとその企業はもちろん、その製品ジャンルの信用を失墜させ、大きなダメージを与えることになりかねません。故に業界全体で危険の防止、また発覚したときの対処を考える必要があるでしょう。
また、各行政機関の方も、問題が起こったらそれ以上被害を拡大しないために、告知など迅速な対応をとることが求められるのではないでしょうか。

あと小麦に限りませんが、症状のない人もアレルギーに対して知識をつけることも重要というのも、今回文章を作成していて思ったことであります。特に自分や世間の多くで大丈夫だからと無理に勧めてるのは、酒などと同様に危険でしょう。
さらにアレルギーは先天的なものだけではなく、こんな感じでいつ、突然自分の身についてくるという可能性だって十分あり得ることも認識しておくべきでしょう。


★2015/12/14追記
熊本地裁で和解が成立した模様。
他の裁判所での訴訟は続行中。

茶のしずく石鹸 | 男女33人と和解 熊本地裁 - 毎日新聞
福岡県大野城市の化粧品製造販売会社「悠香」が販売した「茶のしずく石鹸(せっけん)」の旧製品を使って重度の小麦アレルギーを発症したとして、熊本、大分、鹿児島3県の20〜60代の男女33人が悠香など2社を相手取り計4億9500万円(1人当たり1500万円)の損害賠償を求めた訴訟の和解協議が14日、熊本地裁(中村心裁判長)であり、悠香側が計約5000万円を支払うことで和解した。

 弁護団によると、同種の集団訴訟は全国28地裁・支部に起こされたが、原告全員の和解が成立して訴訟が終結したのは熊本地裁が初めて。旧製品の欠陥や悠香側の法的責任は認めていない。悠香と石鹸の製造業者「フェニックス」(奈良県)が原告33人に解決金として計約5000万円を支払う。フ社に石鹸の原料を供給していた「片山化学工業研究所」(大阪市)も提訴していたが、和解に応じないため原告側が訴えを取り下げたという。




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ほか参考

茶のしずく石鹸等による小麦アレルギー情報サイト
【検証・悠香の自主回収④】67症例全てが悠香示す、使用原料「グルパール19S」に原因? - 通販新聞
検証・悠香の自主回収、茶のしずく回収騒動拡大のなぜ、品質保証の甘さ"アキレス腱"に - 通販新聞
消費者庁、通報を放置…茶のしずく健康被害: 札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎のブログ

茶のしずく石鹸被害救済 大阪弁護団
茶のしずく石鹸被害救済東京弁護団 | こちらは茶のしずく石鹸被害救済東京弁護団のホームページです。
茶のしずく石鹸被害救済愛知弁護団
茶のしずく被害者福岡弁護団

茶のしずく石けん訴訟、請求総額100億超に [訴訟・行政]|企業法務ナビ
悠香側「パンと石けんは同じ」~『茶のしずく』訴訟第3回弁論(前):|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース

「茶のしずく石鹸」集団訴訟、和解協議が難航 - 通販新聞
日刊ゲンダイ|新番組MCも…真矢ミキに気がかりな「茶のしずく」事件の呪縛
悠香 - Wikipedia